死界魔霧都市ロンドン−18



「…やはり、来たか」


地下通路を走って行けば、前方に雷を纏ったニコラ・テスラの姿が見えた。
本来、この時代を生きる人間であるが、今は英霊として召喚されている。エジソンと並んで、人類文明を発展させた人物であり、過去1000年で最も偉大な発明をした人間100人にも選ばれている。

地球という惑星から「未知」をなくし「既知」に変え、人類文明を次のステップへと進めた者、星の開拓者と呼ばれる類の英霊だ。世界の果てがないことを明らかにしたフランシス・ドレイクもそれにあたる。

立ち止まって、通路いっぱいに静電気のように青白い雷電を放つニコラ・テスラと向き合った。


「人類に電気を与えたあなたが、世界を破滅させようとするのか」

「あぁ、そうだとも。この産業革命の英国を破壊し、人理を破壊する。今の私は、そうできている」

「…あなたが人類にもたらしたもののおかげで、人は闇を恐れなくなり、多くの人々が安定したエネルギーを享受できるようになった。多くの人の命をも救った。そんなあなたの手を、人類の滅亡のために汚させたくはない」


電気がエネルギーとして文明に供給されているから、医療やインフラが整い、人々の生活は高度なものになった。それによって、今まであれば死ぬしかなかった人々の命すら救われたのだ。


「最先端にして最後の人類たる君にそう言われるのなら、私も応えたいところだが、あいにくと私は人理を破壊するために顕現している。そのような言葉を私に向ける心意気に感謝する。しかし、それを実現すると言うのなら、私も全力で戦わなければなるまいよ」

「だろうな。その雷電、魔霧を活性化させるだけじゃない。魔力を吸い取る、というか、魔力を電気エネルギーに置換しているのか」

「ご名答。英霊の霊核すら取り込むだろう」


話し合いで解決できるとは思っていない。これは時間稼ぎだ。
とはいえ本心からの言葉であるため、戦わなければならない現実はとても苦しい。しかし、ここで戦うことこそ、彼への敬意であるとも思った。

ニコラ・テスラの纏う電気は魔霧を活性化させ、近づく魔力を電気に置換する形で取り込んでいる。サーヴァントを迂闊に召喚できない。


『サーヴァントを呼べないなんて、やはり無謀だ!』

「呼べるようにするまでだ」

「ならば私はそれを止めよう!」


瞬間あたりの魔力から置換できるエネルギー量を上回る魔力を放出すれば霧は晴れる。恒常的にそれを行うことはまず無理だが、立香たちが来るまで持ちこたえる分には、霧を晴らすことができるだろう。

唯斗は右手の人差し指をニコラ・テスラに向け、左手でしっかりと手首を抑える。そして、大量の魔力を籠めてガンドを放った。
破壊光線のようなそれは眩い光を放ちながら通路に放出され、ニコラ・テスラを含め通路の奥へと轟音とともに進んでいく。壁や天井が削られて崩落し、反動で唯斗も後ろの地面に尻餅をついた。


「…ッ、よし、」


魔力を温存できる範囲において最大火力に近い出力だったため、人差し指からは血が垂れて地面に散る。ズキズキと痛むのを我慢しながらガンドが通ったあとを見れば、通路は削られて瓦礫が地面を埋めており、ニコラ・テスラはあまり効いていなさそうにしつつも、痛みで顔をしかめてはいた。

そして、第一目標である魔霧の消失は達成していた。


「その火力でまだ余裕があるか。技術はひよっこでも、素質は一流といったところか」

「素質だけでサーヴァントと戦えるか…!」

「フハハハハハ、その通りだな」


唯斗はすぐにサーヴァントを呼ぼうとした。

しかしその瞬間、目の前に瓦礫が迫っていた。何かを考える前に、咄嗟に体を左側に傾けて回避行動をとる。

それでもほぼ間に合わず、右肩に大きな岩の塊が勢いよく直撃した。衝撃とともに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
その衝撃でマスクが外れ地面に転がり、他にも飛んできていた破片によって破壊される。


「ッ…!!ぐ、ぁ…!!」


恐らくレールガンのような要領だろう。電気によって勢いよく射出された瓦礫によって、唯斗の右肩は鎖骨などの骨が折れて、皮膚が抉られ勢いよく血が迸る。地面に倒れた直後から、焼けるような痛みが走った。


「…ッ、ぅぐ、あ…ッ!!」

『唯斗君!?』

「たった一人で立ち向かってみせた君への、せめてもの私の『抵抗』だ。雷撃によって体を焼かなかっただけ感謝するといい」


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