死界魔霧都市ロンドン−19


あえてこのような攻撃を選んだということだ。あの電圧を浴びれば即死だ。

目に見えない攻撃モーションとこの近距離ではとても避けることなど不可能である。サーヴァントを呼ぶ、その一瞬で、唯斗は殺される。

だがここで諦めるわけにはいかなかった。ただ一瞬、ほんの一瞬だけ、ニコラ・テスラの攻撃を遅らせることができれば、まだ勝ち目がある。
マスクがなくなったことで、僅かに漂う魔霧が肺を突き刺すが、そんなものは気にならなかった。

唯斗は肩を押さえ、地面に膝をついた状態で、思い切り睨みつけた。唯斗の目を見て、ニコラ・テスラは笑みを深める。


「その痛みでめげぬか。それでこそ!それでこそ人類の望みを託すに値する!」

「…あー、くっそ、うるせぇ…その静電気は飾りかよ…?」


この程度で煽られるような相手ではないだろうが、唯斗は睨んだまま、べっとりと血の付着した左手をかざす。


「情けなんざいらねぇんだよ…!」

「…そうか。では、ここまでだ」

「っ、ヴィアン、!」


呟くように言った直後、ニコラ・テスラの背後に、巨大な金属の棒が出現した。先端に向かって、急速にニコラ・テスラの纏う電気が吸い寄せられていく。意思とは異なる方向に電気が向かったことで、驚いたようにニコラ・テスラは背後を振り向いた。

あれはロンドンの象徴、ウェストミンスター宮殿の時計塔の頂点に鎮座する避雷針だ。避雷針は、18世紀後半には欧州での普及が始まっている。


「ギルガメッシュ…っ!」

「…我を呼ぶとは不敬だぞ、半人前」


その一瞬の隙に、唯斗はキャスター・ギルガメッシュを呼び出した。

唯斗の隣に現れたギルガメッシュは、蹲る唯斗と足元の血だまりを見て驚きつつ、すぐに攻撃に転じたニコラ・テスラの雷撃を結界によって防いだ。
唯斗の初歩的な結界を魔力にものを言わせて重ねた代物とは違う。極めて高度な結界によって、雷撃はすべて弾かれる。


「斯様な場所に呼び出しよって。挙句、人間の分際でサーヴァント相手に単身で挑んだのか」

「…っ、あいつの雷撃は、魔力を電力に置換する。近づくと、霊核ごと取り込まれる。英霊を呼ぶ前に霧を払ったら、カウンターくらった」

「たわけ。多少霊核が軋んでも英霊は死にはせぬわド阿呆。肉壁にでもまずは召喚してから挑まぬか」


呆れたようなギルガメッシュの言うことはその通りで、言い返せない。いや、半端に英霊を呼び出してその霊核を取り込んだ雷撃を放たれたら、それこそこの地下空間ごと吹き飛ばされていたリスクはあった。


「古代ウルク王、ギルガメッシュ。神代の英霊か。現代文明の礎となった私の前に現れようとは。もう神の時代は終わったのだと知れ」

「やかましい。シュメール文明なしに神代から人の世界への転換はなかったのだ。歴史への敬意のない貴様に語ることなどないわ」


ギルガメッシュはそう言うと、背後に宝物庫への入り口となる穴を出現させる。その数は4門。そしてそこから、魔杖が顔を出していた。
その魔杖からは、次々と高度な術式による光線が放たれてニコラ・テスラに向かっていく。さすがに効いたようで、カウンターの雷撃で防げなかった部分が直撃すると呻いて膝をつく。

さらに、ニコラ・テスラの周囲にも光り輝く穴が出現すると、そこから黄金の鎖が勢いよく飛び出してニコラ・テスラの体を拘束する。一切体が動かなくなったことで目を見開いた彼に、留めの一撃を与えようとしたが、それよりも先に魔霧が再び立ち込め始めた。


「っ、だめだギルガメッシュ、タイムアウトだ…!」

「……フン、そのようだな。離れるぞ。動けるか」

「…、立て、ない」


正直、視界が霞み始めており、体に力が入らなかった。大量に血を流したためだろう。右肩はジクジクと痛み続け、垂れ流される血は右腕を伝って、元から出血していた人差し指の先から地面へと垂れていく。


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