死界魔霧都市ロンドン−21


ふと痛みで目が覚めると、こちらをひどく心配そうに見つめる美しい紺碧が視界に入った。


「…アーサー…?」

「よかった、目が覚めたようだね」


端正な顔の後ろに見えるのは武骨な天井で、ここが依然として地下通路だと分かる。マスクをしないままそれなりに経過したが、呼吸はしやすい。


「いろいろ言いたいことはあるけれど、とりあえずは任務の話からだ。まず、ニコラ・テスラは倒された。藤丸君たちが地上まで追いかけて、無事に倒した。すでに彼らはこの地下空間に戻って、アングルボダから聖杯を摘出し、魔霧の生成は止まっている」

「…なんだ、もうレイシフト直前ってことか」

「そうだね、時代の修復は成し遂げられた。君が大けがしながらも食い止めたおかげで、藤丸君たちは地上で、味方として現界していた坂田金時、玉藻の前というサーヴァントと共闘。彼ら二人が弱る前に合流できたから、フルの戦力で立ち向かえたようだ」

「……そっか。他に言いたいことあるだろうけど、できればカルデアに戻ってからで頼む…まだ、ちょっと、頭が…」


寝ているのにクラクラとするためそう言うと、アーサーはため息をついた。


「ギルガメッシュ王が回復魔術を展開してくれたから、右肩の負傷はかなり治っているけれど、それでもきちんとカルデアで処置を受けないと。だいぶ出血もしているし、魔力も消費している」


恐らく、ギルガメッシュはニコラ・テスラの言っていたことを、アーサーとともに追い掛けてきた立香たちに伝えてからカルデアに戻り、アーサーが残って唯斗のそばにいたのだろう。


「…アーサーは、まぁ、大丈夫だろうな。ありがとう、庇ってくれて」

「当然だろう。でも、そのせいで君を一人で行かせてしまった」


そう言って項垂れるアーサーに、唯斗は分かっていたが申し訳なくなる。
あの場でアーサーの回復より追尾を優先することで、後々アーサーが気に病むことは分かっていたが、それよりも唯斗はニコラ・テスラを食い止めることが優先だと考えた。

アーサーもその考え自体は理解しているだろう。


「…サーヴァントが召喚できなかった、というのはあくまで結果論だ。君があのとき単身で追跡したのは正しい。君がサーヴァントを最初から頼るつもりだったのも理解しているとも。だからこそ、最初から僕がいれば…と思わずにいられない」

「……カルデアに戻ったら、みんなに怒られそうだ」

「それが理解できるようになっただけ、今回の特異点では良しとしよう」


エミヤたちに怒られるだろうことを察していると、アーサーはそう笑った。ふと、「みんな」に含まれるカルデアの優男の声がしないことに気付く。
右腕を見てみると、どうやらあの戦いで通信機が壊れていたようだ。マスクと一緒に、あの瓦礫による攻撃で破損したのだろう。

カルデアの方で唯斗のバイタルはチェックしているため、そのうちレイシフトが始まるはずだ。それを待つだけになるか、と思っていたときだった。


「…ん、なんだ、この気配は……」


突然、アーサーが何かに気付いたように顔を上げた。何かが接近しているのだろうか。
何事か聞こうとしたとき、唯斗もそれに気づいた。まるで、召喚サークルからギルガメッシュたちが出てきたときにも似た、時空を超えて何かがやってくるような感覚だ。

本能的に、何か良くないことが起こる、と感じるそれに、アーサーの顔はみるみる険しくなった。


「…これは…!」

「…アーサー、何かが、転移しようとしてるのか、これは」

「その通りだ。これは…真打というヤツかもしれない」

「っ、ソロモン…?!」


ついにラスボスがここで登場するというのだろうか。
慌てて唯斗は体を起こそうとして、全身に鈍い痛みが走った。呻いて思わずアーサーに寄りかかる。


「君はここで安静にしてるんだ、僕は様子を…」

「だめだ」


唯斗はすぐにそう返した。思ったよりも固い声が出ている。痛みを耐えている、ということもあったが、アーサーがそう言うであろうことを分かっていたからだ。


「すでにこの空間は修正を開始してる。崩壊寸前だ。元凶が来るなら、その力で支えられるだろうけど、アーサーの宝具を使えば間違いなく時空ごと崩壊する」

「しかし…倒さなければ恐らくレイシフトも実現しないだろう」

「目的があるはずだ。俺たちの抹消が目的なら、すでにこの空間ごと焼き払ってる。そうしていないということは、他に意図してることがある。カルデアがレイシフトの隙を見計らっているはずだから、余計なことをして空間の歪を大きくするべきじゃない」

「…っ、だが…」


163/460
prev next
back
表紙へ戻る