ノスタルジー−1


第四特異点も無事に修復が完了し、ロンドンから帰還した唯斗は1週間ほどの療養を余儀なくされた。
グランドオーダーが始まってから、マスター側での大怪我は初めてのことであったため、ロマニを含めて一時は騒然としたものの、サンソンたちの献身的なサポートによってすぐに回復できた。

一方で、ロンドンに出現した黒幕・ソロモンについても考察が進んでいるが、悪魔、あるいは神そのものであるような計測値の数々に、スタッフたちはお手上げのようだった。
アーサーと唯斗は、ソロモンがビーストである可能性に気付いてはいるものの、確証がないとして言っていない。いたずらに混乱させることは、正確な計測を第一とするカルデアにとって良くないことだからだ。それもあって、まったくソロモンの正体については仮設すら立てづらくなっていた。

それだけではない。これまでの4つの特異点は、人理焼却直後からある程度特定ができた領域だったが、第五特異点以降は特定が進んでおらず、次のレイシフトは未定だった。
本来の時間ではすでに年末になっているが、さらに2か月以上、座標特定までは3か月近くかかると試算されている。

とはいえ、ソロモンの登場によってカルデアの時空が2016年に到達するまではさらに1年近くあることも明らかになったため、時間の余裕が生まれたことは幸いだった。
ただそれはあくまで不幸中の幸い。これからさらに1年に渡ってこの閉ざされた空間に閉じ込められ、過酷な労働が続くのだという現実は、職員たちをじわじわと追い詰めている。


そんな中、サンソンから療養終了のお許しをもらった唯斗は、次の戦力拡充のために召喚を行うことになった。
立香はすでに、ジキル、アンデルセン、モードレッド、黒髭、ドレイクと召喚を済ませている。さらに、ロンドンへのレイシフト直前にカルデアにどうやってか乗り込んできた、織田信長と沖田総司も仲間に加えている。この件についてダ・ヴィンチいわく、「唯斗君は気にしなくていいよ、脳細胞のリソースがもったいないから」とのことだった。

唯斗としては、縁のある日本の英霊である二人の姿に愕然としたものだが、今は考えるのを辞めている。イメージ通りの英霊の方が少ないのでは、と思いつつある昨今である。

そうして召喚ルームにて、いつも通りロマニの監督のもと英霊の召喚を行う。今回はクラスは特定するつもりはなく、特別なことはしない。

詠唱を終えて、術式から噴き出す霧の中を注視する。前回のギルガメッシュのときはひと騒動起こってしまったが、今回はどうだろうか。黒髭のように、特異点から変わらずドュフドュフ言っているようなイメージ崩壊にならないといいのだが。


「…サーヴァント、クラス・アーチャー。東方の大英雄アーラシュとは俺のことだ。よろしくな」


そんな言葉とともに霧から現れたのは、ディルムッドとエミヤの間くらい、唯斗より15センチほど背が高く体格の良い男のサーヴァントだった。快活で爽やかな笑みを浮かべた古代ペルシアの英霊に、唯斗はひどく驚く。


「アーラシュ…あのペルシアの英雄か」

「その認識で間違いないぜ。今回のマスターは、こりゃまたイケメンだな。また東洋人か、縁があるな」

「過去に聖杯戦争に参加してたってとこか?今回は少し状況が特殊なんだけど…」

「大体は分かってる、座からの情報と、千里眼でな。ちょいとばかし、目はいいんだ」

「ちょっと、って次元じゃねぇだろ、伝承的には…まあいい、そういう話はあとだ。俺は雨宮唯斗、日本人だ。よろしく」

「おう、よろしく頼むぜ、マスター」


古代ペルシア神話において、北方との長い戦争を終わらせるべく、カスピ海南岸あたりから超遠距離射撃を行った伝説で知られる。神代の終わり、神の体を持つ英霊であり、その目は未来を見通すとされた。
現在もペルシアでエーラシュ、アラビアでイーラシュという名前は男の子の名前としてごく一般的であるほど、中東世界でよく知られる大英雄だ。

丁寧な騎士然りとしたアーサーとディルムッド、紳士なサンソン、皮肉屋のエミヤ、そして不遜な古代王ギルガメッシュという唯斗のサーヴァントの中では、まったく新しいタイプのサーヴァントだった。


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