ノスタルジー−2


アーラシュは、英霊としての人格像は伝承よりフランクな印象だが、普段の様子は近所の気のいいお兄さんというような感じだった。コミュニケーションに癖がなく、実力はもちろん高く、唯斗との1対1の訓練でも他のサーヴァントとの訓練でもまったく問題なかった。

サンソンら既存サーヴァントたちからも評判が良く、順調に関係を築けそうだ。

アーラシュとの訓練を開始した頃には、カルデアにも本来の時間軸で年末にあたる時期が訪れており、気付けば大晦日にあたる日になっていた。
日本の厳かな雰囲気でもなく、欧米のパーティーのようなものでもなく、クリスマスからなし崩し的に年末となる中で、なんとなく時を刻んだような形である。

とりわけ唯斗はそういう情緒に関心がないため、いつも通り訓練を終えて自室に引っ込んでからようやく大晦日だと理解したほどだ。

特に感慨もなく、部屋でシャワーを浴びて私服のパーカーに着替えると、扉がノックされる。ちょうど立っていた唯斗は、ロックを外してスライドした扉の向こうにいた赤い弓兵を見上げる。


「エミヤ?どした?」

「マスター、今晩は夜更かしする気はあるかね」

「あぁ、年越し?特に何も考えてなかった」

「そうか。マスター・藤丸のリクエストで年越しそばを作ったんだが、マスターも食べるか?日本で暮らしていただろう」

「年越しそばか…エミヤが作るんなら食べてみたい」

「分かった。もうできているから持って来よう」


どうやらエミヤは年越しそばを作ってくれていたらしい。時刻を見ればまだ22時くらいだ。


「食堂なら行く。立香たちはもう食ったのか?」

「あぁ。だが、今もう食堂は飲み会状態だ。騒ぎに巻き込まれたくないのならお勧めしない」

「あー…なるほどな。うん、ここでいい。悪いな」

「構わんよ。待っていてくれ」


立香たちも混ざっているのかは分からないが、アルコールが入っているなら立香もマシュとともに自室に引っ込んでいるだろう。酒が入るとひどいのだ、立香のサーヴァントたちは。

唯斗のサーヴァントは節度があるというか、アーサーやギルガメッシュはそういう集まりには関わらないし、ディルムッドも自制する。サンソンは騒ぎを嫌うし、エミヤは肴作りに奔走させられる。アーラシュはそれなりに楽しむタイプだろうが、大騒ぎもしないらしい。

少しして、エミヤがトレーを持ってきてくれた。今回は自身の分も持ってきたようで、二人分の年越しそばがテーブルに並べられた。

エミヤはデスクチェアに座って、唯斗はベッドに座る。あまり行儀は良くないが、やはり騒ぎになっているらしい食堂に行くよりはマシだった。
クリスマスにかこつけて開かれた飲み会に巻き込まれた立香がひどく疲れていたのを見てぞっとしたものだ。あれから1週間と経っていない。

出汁と醬油の匂いが食欲をそそる器を受け取ると、箸を持って「いただきます」と言ってから食べ始める。
エミヤもずずっとそばを啜り、二人分の麺を啜る音が響いた。


「あ”ーうま…やっぱエミヤの飯は美味いな」

「気に入ってもらえたのなら何よりだ。君の好物を増やすことが我々厨房班の目標なのでね」


特に好きな食べ物はないと言ったとき以来、エミヤやブーディカは唯斗に「また食べたい」と言わせるようなものを作ろうと奮起してくれているらしい。
また、ギルガメッシュはちょくちょく唯斗に宝物庫から出てきた高級なお菓子を餌付けしてくれている。高級な既製品を与えるギルガメッシュと、料理で唯斗を唸らせたいエミヤとで冷戦となっていると立香が言っていた。


「にしても、この和食の美味さ、やっぱエミヤは日本人だよな」

「かつての国籍ということならそうなるな」


改めて聞いてみると、あっさりエミヤは答えた。そういえば、唯斗はエミヤに対して深くその素性を知ろうとしたことがなかった。本人も隠していたわけではないのだろう。
聞かなくても良かったから聞いてこなかったが、唯斗はいいタイミングか、と聞いてみることにした。


167/460
prev next
back
表紙へ戻る