ノスタルジー−3
「アーラシュやアーサーも、日本で行われた聖杯戦争の経験があった。必ずしも、それがこの世界のものだったとは限らない、というか、記録として考えれば多分この世界線じゃないかもだ。いずれにせよ、エミヤも、聖杯戦争に参加したことあるよな。それも、マスターとしてもサーヴァントとしても」
特異点Fのあとにエミヤを召喚してからというもの、エミヤはいろいろと教えてくれたが、それらはかなり実務的なマスターとサーヴァントの知識だった。それこそ、どちらも経験していないと分からないようなことだ。
「ふむ、いつそのことを聞かれるかと思っていたが、存外遅かったな」
「あれだな、一番最初のサーヴァントだし、なんかタイミング逃した」
「私も自分から話すことはしなかった。いい機会かもしれない。マスターの認識通り、私はマスターとしてもサーヴァントとしても経験がある」
やはりエミヤは特段隠していたつもりもなかったようだ。ただ、タイミングがなかっただけだ。長い付き合いのため、機会を逸していた。
そして唯斗の予想通り、エミヤはマスターもサーヴァントも経験があるらしい。それはなかなか他の英霊では聞かない話だ。
「普通の聖杯戦争は一騎だけだろ。どんなサーヴァントだった?」
「セイバーだ。健啖家の女性剣士だった。もっとも、伝説では男性のはずだったがね」
懐かしそうにする表情を見て、なんとなく、きっとそのセイバーは女性の方のアーサー王だったのだろうと思った。特異点Fで、エミヤに似たシャドウ・サーヴァントに対してキャスターが言っていたことを鑑みて、縁があるとすればそこだろうと考えている。
「エミヤの腕前なら、サーヴァントだったら誰でも健啖家になるだろ」
「君の小食がなんとかなればいいんだが」
「物理的に俺は入らないっていうか…」
そうやって会話をするうちに、そばを完食する。器を二人分重ねてトレーに置いて、エミヤは合わせて持ってきていた温かい緑茶を出してくれた。
その茶を飲みながら、今度はサーヴァントとしての過去を聞くことにする。
「サーヴァントとして聖杯戦争に参加したときは、どんなマスターだったんだ?」
「そうだな、なんとなく、藤丸に似ているかもしれない。女性だったよ」
「…おてんば娘ってことか?」
「フッ、そういうことになるな」
小さく笑ったエミヤの精悍な顔には、やはり懐かしさが滲む。マスターとしての記憶も、サーヴァントとしての記憶も、とても彼にとっては大事なものなのだろう。
「俺の前のマスターだった女性も、君と同じくらいの年齢だったが、実力はそうだな…同じくらいか、彼女の方がやや優秀だったかもしれないな。ただ、マスターの転移の魔術刻印は極めて優れたものだ。その使い方や、関連する英霊の知識量などを考えれば、私や彼女よりも、君の方が良いマスターだろう」
「別に比べることじゃないだろ。きっと、マスターとしてのエミヤも、エミヤの前のマスターも、素敵な人だったんだな」
「…なぜそう思ったんだ?」
純粋な疑問を浮かべるエミヤに、唯斗は苦笑する。少し、幼いような印象を受ける表情だったからだ。
「エミヤの顔見りゃ分かる。大切だったんだろ、セイバーも、前のマスターも」
「ッ…!そう、だな。あぁ…君にその類のことで気付かされるとは」
「どうせ大晦日の情緒も解さないマスターだよ俺は」
湯吞をトレーに戻しながら言えば、エミヤに頭を撫でられる。その腕の向こうを見上げると、エミヤは珍しく、純粋な笑みを浮かべていた。
「そんな君がマスターで良かった」
「…俺も。エミヤが最初のサーヴァントで良かった。お前が言ってた通りにな」
召喚して最初に行ったシミュレーションで、エミヤが冗談めかして言ったことだ。それをもじったことに気付いたエミヤは、苦笑しながら「当然だ」とだけ返した。