ノスタルジー−4
本来の時間軸であれば年が明けて、2016年になった。本当にカルデアが2016年を迎えるまであと1年近く、それまでにグランドオーダーを完遂しなければ人類は絶滅する。
それはそれとして、今は第五特異点の特定に向けて調査を進めつつ、マスターとサーヴァントたちはそれぞれひらすら訓練やシミュレーション、または小特異点へのレイシフトを行っていた。
小特異点は、これまで解決してきた特異点によって皺のように発生した歪のことであり、聖杯の欠片や、稀に聖杯そのものが手に入ることから、食料などと合わせて解決がてらリソース回収を行っている。
そんな中、いわゆる三が日という元旦のある日のことだった。
食堂に入って昼食を取ろうとしていると、先に食べていた立香が話しかけてきた。一緒にいるのはマシュとジキルだ。
「あ、唯斗!」
「?なんか用か?」
「あのさ、唯斗は話してみたい英霊っている?」
どういう意図だろうか、と思っていると、それをくみ取ったマシュが補足する。
「ジキルさんと、第四特異点のことを話していたのですが、シャーロックホームズに会えるかどうかというところから、話してみたいサーヴァントの話になったんです」
「幻霊は知名度さえあれば召喚できる。会おうと思えばホームズにも会えるだろう。ちなみに僕はエジソンかな」
碩学者だけあり、ジキルの答えは納得だ。例によって、特異点での記憶は残らないため、ジキルはサーヴァントとしてまっさらな状態でここにいる。
ちなみに、ジキルは幻霊ではなく、なんと実在していた人物だという。後世では小説の登場人物としてしか伝わっていないだけで、史実の人間だったらしい。
「私はシャーロックホームズに会えるなら会ってみたいですね。先輩はナポレオンだそうです」
「カルデアに来る前から知ってた有名人だしね」
立香は知ってる名前を挙げたという感じが近いようだ。
会話の流れを理解して、唯斗は考える。一度は会ってみたい英霊、などたくさんいすぎて答えられない。
「いろいろいるけど…あー、そうだな、ぶっちゃけ、ランスロットと話してみたい」
「え、もういるじゃん」
唯斗が挙げた名前に立香はキョトンとする。セイバーのランスロットはカルデアにもういるし、なんなら少しは唯斗だって会話したことがある。
「戦闘に関する話は訓練中や特異点で一瞬だけしたけど、それだけだし。ほら、俺フランスでも特にアーサー王伝説に縁があるブルターニュの育ちだからさ」
「なるほど…確か、フランス語版のアーサー王伝説ではランスロットが、英語版ではガウェインが持ち上げられる傾向があるとされていますね」
「そういうこと。俺はフランス語版で育ったからな、やっぱランスロットの方が憧れがあるっていうか」
「でもランスロット来てから結構経つのに、話さなかったんだ」
立香の言う通りで、ランスロットがカルデアに来てから随分経っている。第二特異点からの参戦だ。なのに、唯斗は今までほとんど話してこなかった。
「いや、契約してるわけでもないサーヴァントだぞ。特に用事もないのに話しかけられるか」
「あぁ、そういえば唯斗、コミュ障だったね」
「キャスターさんに話しかけるのも躊躇われていましたね」
以前、キャスターに訓練を見て欲しいと頼むのにひと悶着あった。コミュ障という表現は若干腹が立つが、正直その通りだ。
用もないのに話しかけるなど唯斗にはハードルが高い。自分のサーヴァントならまだしも、相手は立香のサーヴァント、それも憧れた湖の騎士だ。
「僕も話したことがあるわけではないけれど、ランスロット卿は騎士だろう?一般的な会話くらい引っ張ってくれるはずだよ」
ジキルは唯斗の背中を押すべく、そうフォローしてくれた。好青年然りとした見た目通りの優しさだ。そして、その言葉は一理ある。恐らく、ランスロットは会話を引っ張ってくれる。
「大丈夫だって唯斗、自分に憧れてるなんて相手を無碍にはしないよ」
「そうですよ唯斗さん、そんなことをしようものなら私が盾を入れておきます!」
なぜかランスロットに対して当たりが強いことがあるマシュに、立香やマシュはそれを疑問に思っていたが、唯斗はロンドンでアーサーに確認して合点がいった。マシュの中にいるのがギャラハッドなら、確かにそうなっても仕方ない。ただ、それもたまに、というだけの話だ。
「ランスロット、今日は特に予定入れてないから空いてるはずだよ。行ってみれば?」
「……そう、してみようかな」
今までだったら諦めていただろう。しかし、なんとなく、動いてみようと思えた。これも、アーサーがロンドンで言っていた成長というヤツなのかもしれない。