ノスタルジー−5
立香たちに背中を押され、唯斗は勇気を出してランスロットに話しかけてみることにした。特に話題があるわけではないが、ジキルの言う通り、会話そのものは引っ張ってくれるはずだ。
前回のキャスターのときは、こちらが頼みごとをする手前、なるべく頑張ろうと思っていたが、今日はそういうわけでもない。気楽に行っていいだろう、と思いつつ、唯斗の心境としてはまったく気楽さはない。
緊張しながら、他のサーヴァントに聞いてランスロットがいるというシミュレーター付近に来てみると、ちょうどシミュレータールームからランスロットが出てきたところだった。
金に縁どられた白い甲冑に青いマントが翻る。
「あ、ランスロット」
「…おや、これは」
廊下で思い切って話しかけてみると、ランスロットは振り返って意外そうにする。唯斗からこうして話しかけることなどまずないからだ。
「どうかされましたか、唯斗殿」
「え、と…その、特に用事があるとかじゃ、ねぇんだけど…」
口ごもる唯斗に、ランスロットは首をかしげる。当然だ、普段会話もない間柄、いきなり声をかけられたら何か用事かと思ってしまう。逆ならそう思う。
しっかり言葉を待ってくれるランスロットの顔を見上げ、その紫紺の瞳を見つめる。相手の目を見て話す、それは欧米での当然のマナーで、それは唯斗にも染みついていた。
「あー…その、だな。さっき、立香たちと、話してみたい英霊の話題になって」
「ほう。確かに、これだけたくさんの英霊と会える場所です、一度は話してみたい英雄というのはいるものでしょう」
「…うん、そんで俺は、実はずっとランスロットと話してみたかったんだけど、なんつか、ほら、契約してるマスターでもねぇ俺が、何の用事もなく話すとか、そんなんそもそも自分のサーヴァントにだってしないから、今まで機会なくて、えーと、」
なんだか前回のキャスターのときを彷彿とさせる展開だ。
否定するつもりは元からなかったが、やはり立香の言う通り「コミュ障」というやつなのだろう。しどろもどろになった唯斗を見て、ランスロットは小さく笑う。
「それで、私のところまで来ていただいたのですね。ありがとうございます、異世界の我が王をはじめ、伝説的な英霊を従えるあなたにそう仰っていただけるとは、とても光栄です」
「そう、か…?」
「ええ。それに、あなたはフランスのブルターニュにお住まいだったと聞いています。現代のブルターニュがどのような場所になっているか、ぜひお伺いしてみたかった」
これが騎士の会話力か、と感嘆する。流れるように会話を誘導してくれたため、思わずほっとしてしまう。
ランスロットはほほ笑んで、近くのラウンジを示した。ラウンジと言っても、テーブルとカラフルな椅子が並んでいるだけの空間だ。
「よければ座りましょう。コーヒーをお持ちします」
「や、それくらいやるって」
「いえ。唯斗殿にそこまでさせたとあっては、マスターにも異世界の我が王にも面目が立ちません」
誰もいないラウンジのテーブルについたところで、ランスロットがラウンジ内にあるドリンクスタンドからコーヒーを用意してくれる。
ペーパーカップホルダーに紙コップを差してコーヒーを淹れたランスロットは、それを二人分テーブルに置き、自身も椅子に座った。
「…ほんとは、殿、なんて大層な呼び方もいらねぇけど…アーサーや他の俺のサーヴァントへの敬意でもあるか」
「あなたが望むなら呼び方はいくらでも変える用意はあります。ただ、おっしゃる通りではありますね」
「いや、それならいい。お前にとって大事なところだろ」