ノスタルジー−6


唯斗への敬意は唯斗だけのものではない。唯斗に従うサーヴァントたちへのものでもある。礼を失することは騎士も貴族も必ず避けることだ。

唯斗の言葉に、ランスロットは微笑む。


「唯斗殿は誠実な方だと、王やディルムッド殿から伺っております。あなたの誠実さは、とても温かく感じます」

「べ、つに、そういう世辞まで言う必要はないって…」

「世辞であるものですか。これでも控えているのです。ディルムッド殿であれば、この10秒間でもっと濃密な賛辞を送っていたことでしょう」

「……それは、そうかも」


語彙力の問題ではないレベルで、ディルムッドは口を開けば唯斗への賛辞やら敬意やらを口にする。最近はそれに別の言葉、まるで口説くようなものまで含まれ始めているのだが。
ランスロットの的を射た返しに唯斗も小さく笑い、コーヒーを一口飲んでから切り出す。本当に、喋りやすくしてくれた。


「知っての通り、俺は生まれこそ日本だけど、人生の半分以上はフランスで育った。多分、日本では6年くらいしか過ごしてないな。だから、フランス語でアーサー王伝説も読んでた。露骨にガウェインよりランスロットを持ち上げてる方な」

「ガウェイン卿は極めて優れた騎士です。本来はそのような優劣は好ましくありませんが…祖国に今もそう愛してもらえていることは、純粋に嬉しく思います」


円卓の騎士の中でも、ランスロットはフランス生まれの騎士だ。ブルターニュとアキテーヌの境界あたりにあったとされるベンウィック王国のバン王の息子として生まれるも、湖の乙女という精霊に攫われ、湖で育てられた。その逸話から、湖の騎士と呼ばれる。


「俺が住んでたのはドルって街で、サン=マロに近いところにある」

「ドル司教区のあった町ですね。覚えています。といっても、当時とはまったく異なる趣だったでしょうが」

「かもな。あぁ、ランスロットが育ったかもしれないっていう湖も行ったことがある。レンヌの南に、バンって街があって、そこに湖があるんだ」

「それは興味深い。実際に私が育った湖が今もあるのか、現代でどの位置なのかは正直定かではありませんが、あのあたりは池や湖が多い、どこも似たような景色だったはずです」


イル=エ=ヴィレーヌ県の県都であるレンヌから見て、北方にドル=ド=ブルターニュ、南方にバン=ド=ブルターニュという街がある。バンにはバン池という湖があり、その名前からランスロットが育った湖の候補として挙げられる。
ベンウィックがあったとされるのは、それよりもやや南、ナント寄りの地域だ。

小さな川や池、湖が点在する森の中、静謐な空気が湖の表面に立ち込める光景があちこちで見られる。


「そういえば、私の頃にはカルナック列石などのメンヒルが多くありましたが、今もあるのですか?」

「あるある。ドルにもあったしな。つか、俺の家はもともとメンヒルに込められた魔力を触媒に召喚術を研究してた」


メンヒルは、いわゆるメガリスという巨石建築のことだ。人類の原始時代に築かれたもので、ストーンヘンジやルーン石碑と並ぶ、ケルト系の古代民族によるものだとされる。
ブルターニュは北欧やブリテン、アイルランドから至るケルト古代文明の名残を色濃く残す場所であるため、カルナック列石という3000個以上の石が並ぶものをはじめメンヒルが多く残っている。欧州大陸部では恐らく最多を誇るだろう。

唯斗が暮らしたドルにもメンヒルがあり、高さ9メートルほどの巨大な石が屹立している。
メンヒル・ド・シャン=ドランという巨石は、「嘆きの地のメンヒル」という意味であり、この岩に込められた魔力を使ってグロスヴァレ家は召喚術研究を始めた。


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