ノスタルジー−8
「何してんだお前ら」
唯斗が尋ねると、ディルムッドが隣で答えてくれる。
「我が主よ、エミヤ殿からキャスターのクーフーリン殿に迫られていたという話をお聞きし、ランスロット殿も怪しいだろうということで霊体化しておりました。お許しを」
「迫られた…え、あれって、俺迫られてたのか」
「やはりお気づきではなかったか…!」
頭を抱えるディルムッドとサンソンに、ランスロットは「苦労しますね…」となぜか同情している。そんなランスロットに、アーサーはにっこりと微笑んで言った。
「二度目はないよ、ランスロット卿」
「とぅわッッ!!そ、そんな、異世界の我が王、私はその、」
一度目は王妃のことだろうか。だとすれば、アーサーは唯斗を二度目と言っている。
「いや、誰が王妃だ」
「もちろん、君は君だよマスター。僕の最も大切な人」
「いや、マスターの言う通りだよアーサー王。あなただけのマスターではないんだ、そういう理由は感心しない。ランスロット、僕はマスターを、かつて女性を寝取った者に預けるつもりはない」
「う…っ」
サンソンのその言葉は、ランスロットだけでなくディルムッドにも刺さった。もちろん、そのつもりだったのだろう。
そして彼らの会話から、唯斗はようやく、ランスロットが握る手の意味に気付く。その手を揺らして、ランスロットに問いかける。
「つか、俺、今ランスロットに迫られてたのか」
「いや、その…私は…」
「危な、ランスロット相手だったら流されてたかも」
「「「マスター!?」」」
もしランスロットに連れ込まれていたら、唯斗は流されて赦してしまっていたかもしれない。唯斗にとってはそれくらいの相手なのだ。
そんな言葉を聞いて、サンソンたちは声を揃えてこちらを振り返る。ランスロットはランスロットで、「光栄です」とにっこり笑う。なんだかんだしたたかなことだ。
ディルムッドはぐっと拳を握り、決意を込めた表情になる。
「サンソン殿、やはりランスロット殿はブラックリスト入りで間違いない。守護者会議を開くべきだ。アーラシュ殿も呼ぼう」
「そうだね。オブザーバーとして、藤丸とマシュの参加も求めるか」
「いや待て、なんの会だそれ」
そうして出てきたのは、聞いたことのない会議名だった。
サンソンが説明するところによると、キャスターに唯斗がちょっかいを出されそうになった事件をきっかけに、サンソン、ディルムッド、エミヤによるマスター・唯斗を守護する会議が不定期開催されることになり、重大な議案にはアーサーも参加するらしい。
今回からはアーラシュの参加と、オブザーバーに立香とマシュも呼ぶそうだ。いったい何を言っているのか。
「つかそんなん、どっちかっていうと保護者会じゃね」
唯斗の言葉で保護者会の知識が送られてきたのか、サンソンたちは微妙な顔をした。否めないが例えられたものが彼らにとっては少し嫌だったらしい。
「まぁ、なんでもいいけど、わざわざ俺みたいのに手ぇ出すとか、キャスターもランスロットも趣味悪いぞ。もっと選べる立場なんだし、自分を大事にした方がいい」
なんであれ、カルデアという閉鎖空間で唯斗に手を出すとは気の迷いにしては悪趣味だ。他にも選択肢があるのだから、と言えば、今度は全員が微妙な顔をして唯斗を見つめた。
「え、なんだよ」
「…マスターには教育が必要なようだ」
そしてアーサーが言ったその言葉をきっかけに、サンソンとディルムッドはこぞって自分がその役目をやると言いだし、最後にランスロットが「では私が」と言った途端、全員から剣や槍を突きつけられた。
いったいこれはなんのコントだろうか、と思っている唯斗の後ろから、説教をするべくエミヤが近づいていたとは、このときは知る由もなかった。