特異点F: 炎上汚染都市冬木−9
そこから10分ほど、すぐに一同は洞窟の最奥に辿り着いた。広大な空間にはとてつもない魔力量が満ちている。
「これが大聖杯…超抜級の魔術炉心じゃない…なんで極東の島国にこんなものがあるのよ…」
『資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです』
名前だけは聞いたことがある魔術師の家系だ。しかし唯斗はそんなことより、奥に堂々と立ちはだかるサーヴァントに気付く。聖剣を自身の前に突き立てて仁王立ちとなった姿は、かつて見た姿と異なる。恐らく女性だ。
どうしてか、あそこにいるセイバー、アーサー王は女性のサーヴァントだった。どういうことかは分からないが、あの日唯斗が出会った相手ではないと分かり、一気に気持ちが楽になった。いや、漲る魔力量のおぞましさは決して楽ではないのだが。
向こうもこちらに気付いたのか、さらに魔力を放出して警戒を滲ませた。
「気付かれたようだぜ」
「なんて魔力放出…あれが、本当にあのアーサー王なのですか…!?」
『間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、キャメロットでは男装しなければならない理由があったんだろう』
「ヤツを倒せばこの街の異変は消える。いいか、それは俺もヤツも例外じゃない。その後はお前さんのたちの仕事だ。何が起こるか分からんが、出来る範囲でしっかりやんな」
キャスターの言う通り、セイバーを倒すことは第一段階でしかない。その先に、カルデアとしてすべきことがある。
「ほう、面白いサーヴァントがいるな」
「てめえ喋れたのか!?」
それなりに距離があるはずなのに、洞窟という場所だからか、彼女がサーヴァントだからか、なぜか声がよく聞こえてきた。
どうやらキャスターはセイバーが喋っているところを初めて見たらしい。
「あぁ。何を語っても見られている。だから案山子に徹していた。だが…面白い、その宝具は面白い。構えるがいい名も知らぬ娘。その守り、真実かどうか確かめてやる」
「…見られている……?」
謎の言い回しに唯斗が疑問に思ったのも束の間、おもむろにセイバーが切りかかってきた。すぐさまマシュが盾で防ぐが、最も大きな音を立てて受け止められた。なんとかマシュは踏ん張るが、その一撃はあまりに重い。
キャスターもルーン詠唱による魔術を勢いよく次々と展開させていくが、セイバーは鮮やかな身のこなしで避けていく。唯斗が攻撃に参加しても、あのクラスではかすり傷にもならないだろう。
いや、最大火力でガンドを食らわせれば、それなりに効くだろうが、それは恐らくキャスターたちを邪魔してしまう。
何もできないことを歯がゆく思いながらも、しかしキャスターとマシュが奮戦して追い詰めていく。
「…すごいな、これがサーヴァントか……」
「ええ…分かってはいたけれど、やはり格が違うわね」
デミ・サーヴァントであるマシュも含め、サーヴァントという存在の桁外れの強さを痛感する。これは人間が相手できるようなものではない。同時に、サーヴァントであれば格上相手でもここまで戦えるのだ。
そしてついに、キャスターが起こした爆発によって飛ばされたセイバーにマシュが思いきり盾を叩きこみ、セイバーはふらついて地面にエクスカリバーを突き刺すと、それにもたれた。
「…ふ、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に傾いた挙げ句敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと私一人では同じ結末と言うことか」
「あ?どういう意味だそりゃあ。てめえ、何を知っていやがる?」
「いずれあなたも知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー…聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだということをな」