孤独と孤独−4
午前中は自室でだらだらと過ごしていた唯斗だったが、オフの日は図書室で勉強していることが多いため、きちんと朝昼晩と食事をとっている。
昼食のために再び食堂にやってくると、今回はエミヤが立っていた。朝はブーディカが担当していたため、唯斗はカウンターで「おはよう」と挨拶をする。
エミヤは唯斗を見て同じく返してから、「あー…」となぜか言葉に言い淀む。首をかしげると、なぜか唯斗のトレーに丸いチョコレートが置かれた。以前、ギルガメッシュにもらったトリュフと呼ばれる菓子だ。
「これ…トリュフ、だよな」
「…すまない、私もあまり、こういう場面でスマートな行動ができないのだが……」
「……あ、夢のことか」
どうやらエミヤも夢を共有していたらしい。
この唯斗だけに渡されたチョコレート菓子は、エミヤなりの励ましなのだろうか。
「悪いな、気にさせて」
「いや…存外、元気そうだが…ふむ、それは私の仕事ではないか」
「エミヤ?」
ぶつぶつと独り言を言ったあと、エミヤは苦笑する。そして、カウンター越しに唯斗の頭を撫でた。
「えっ、ちょっ、なんだ」
「私にできるのは、マスターの健全な暮らしをサポートしつつ戦うことだからな。今はこうして、君は特別な人間だと分かりやすく伝えるほかないというだけだ」
「…?」
言っていることは良く分からなかったが、もらえるものはもらっておこう、とトリュフをひとつ口に含む。
ギルガメッシュにもらった有名ブランドのものももちろん美味しかったが、エミヤの方がより、唯斗の好みに合った苦さと甘さのバランスだった。
「…エミヤが作ったモンはやっぱり、なんでも美味しいな」
「それは何よりだ。リクエストはなんでも言ってくれ。マスターのリクエストはすべて聞こう。特別にな」
「うん、ありがとう」
きっとエミヤは、唯斗に対して、あの夢での出来事のように軽んじられるべき存在ではないのだと伝えたいのだろう。それを分かりやすく示したいのだ。
少しだけ不器用なようで、押し付けがましくない優しさが温かい。唯斗はもう一度礼を言ってから、食堂内のテーブルについた。
食事を進めていると、おもむろに隣の椅子が引かれた。見上げれば、慣れた気配にすでに誰か分かっていた相手が微笑む。
「サンソンか」
「はい、マスター。お隣よろしいですか?」
「あぁ」
サンソンは隣の席に座ると、トレーの隅のトリュフに気付き、苦笑する。
「やはり彼もでしたか」
「…サンソンも、俺の夢見てたか?」
「ええ。その様子だと他のサーヴァントもそうなのですね。夢に強度があるとすれば、昨晩のものは極めて強かったのでしょう。恐らく、マスターのサーヴァントは全員見ていたのではないですか」
「やっぱりか、そんな気はしてた。嫌なモノ見せたな」
「いえ。僕こそ以前、同じことがあったんですから、おあいこでしょう」
そう言ってサンソンは再び立ち上がった。着席したばかりなのにどうしたのかと見上げる。
「紅茶の準備をしてきます。トリュフに緑茶、というのも味気ありませんから」
「…ありがとう」
そこまでさせるのは気が引けるが、エミヤ同様、サンソンも何かしたいと思ってくれているのだろう。それを無碍にするわけにもいかず、唯斗は礼を言う。もちろん、サンソンの言う通り、甘いものには紅茶が良い。
サンソンが淹れてくれるととても香りが立つため、さすが、英国よりも長い紅茶の歴史を持つフランスの英霊だけある、と感心している。
ティーセットを持ってサンソンが戻ってきた頃には大方食事も終えていて、見計らったようにサンソンはカップに紅の液体を注いでくれた。やはり芳醇な香りが立ち上がり、それだけで気分が落ち着いた。
「やっぱサンソンが淹れてくれると香りがいいな」
「ありがとうございます。呼んでいただければいつでもお淹れしますよ。もちろん、紅茶のこと以外でも、僕はいつでもあなたのそばにいます」
「…サンソンと話すのは、落ち着くから、助かる」
唯斗の手をそっと撫でたサンソンにそう言うと、サンソンは優しく微笑む。
唯斗のサーヴァントの中で一番空気感が近いサンソンの隣はとても落ち着くが、思えばあの頃、そんな相手はいなかった。
「マリーは何かとお茶会を開きます。マスターもぜひご一緒しましょう。みんな喜びます」
「サンソンも?」
「当然です。僕はあなたの隣にいられる1分1秒が大切ですから」
普段なら絶対聞かないようなことを聞いてしまった唯斗だったが、サンソンは間髪入れずに答えてくれた。
そして、唯斗にはそれだけの価値があるのだと伝えてくれるサンソンのアクアマリンの瞳は、柔らかくこちらを見つめていた。