孤独と孤独−6


そうして一日を終えて自室のベッドに横になると、見計らったようにノックされた。朝と同じそれに、開錠して扉がスライドすると、やはりそこにはアーサーが立っていた。

部屋に招き入れると、まるで朝の夢から醒めたばかりのときが繰り返されたようだった。


「みんな心配していたかい?」

「心配もしてたけど、それぞれ、いろいろ伝えようとしてくれてた。俺は恵まれてるな」

「そうか、うん、彼らはそうだろうね」


確かにみんな、唯斗にはもったいないほどの優しさをくれた。
それでも足りないと思ってしまう自分は、欲張りなのかもしれない。


「…アーサー」

「うん?」

「ちょっと、鎧、消してもらっていいか」

「いいけど…」


唯斗の言葉にすぐに応じて、アーサーは鎧を消す。金に縁どられた青い服の姿になると、唯斗は、正面からそっと抱き着いた。

息を飲んだアーサーは一瞬だけ動じたが、すぐに抱きしめ返してくれる。この距離に自分から近づくのは、恐らく初めてのことだ。
なんだかこの行為に説明をしなければならないような気になって、アーサーの肩に頬をつけたまま口を開く。


「あー…その、なんだ、ほんとはアーサーが出てくる場面だったのにそうならなかったから、不完全燃焼っていうか…」

「ふふ、意味も理由もなくていいんだよ、マスター」


言い淀む唯斗の心情をアーサーはお見通しだったらしい。
さらに、おもむろにアーサーは唯斗を抱き上げた。ローマ以降すっかり慣れてしまった横抱きだが、いきなりはさすがに驚く。


「わ、なんだ、アーサー」

「こっちおいで」


アーサーはそう言って、唯斗を抱き上げたままベッドに腰掛ける。その膝の間に横向きに座る形となり、左側にアーサーの体温を感じる姿勢で改めて抱き締められた。

アーサーの右手は唯斗の肩を抱いて上体を支えてくれていて、左手はあやすように唯斗の手を絡めとる。
あの日、生まれて初めて頭を撫でて抱き締めてくれたのも、この手だった。

先ほどの不完全燃焼というのは嘘ではなく、きっと今日一日、唯斗はアーサーにこうしてもらいたかったのだろう。
そんなこと、恥ずかしくて口が裂けても言えない。しかしもう我慢もできず、仕方なく、唯斗はアーサーの左手を持ち上げると、自身の頭の上に置いた。

言外に撫でろ、と言っているような仕草に、自分で何をしているのかと顔が火照る。さっそく後悔し始めていると、アーサーは心得たように頭を撫で始めた。


「…マスターはこれが限界なだけとは分かっているんだけれどね。こういう可愛らしい甘え方をされてしまうと、愛おしくて堪らなくなる」


そう言うアーサーの言葉は、まるで砂糖を溶かすかのような甘やかさが含まれており、気恥ずかしさと撫でてくれる心地よさで、キャパオーバー寸前だった。大部分は自分で蒔いた種なのだが。
唯斗は耐え切れず、アーサーの胸元に顔を埋めた。もう外気に触れさせていることすら躊躇うほど、顔が熱い。

しかし、しばらくそうしているうちに段々と落ち着いてきて、顔の火照りも引いていく。代わりに、アーサーの出る場面で夢に割って入ってきた存在、ギルガメッシュの言葉からサーヴァントらしきあの男の正体が気になり始める。恐らく、アーサーは知っているはずだ。


「…なぁ、アーサー」

「なんだい?」

「俺の夢に出てきたあいつって…ひょっとして、マーリンだったりするか?」

「正解。といっても、この世界のマーリンだから僕の知るマーリンではないけどね。僕の世界では女性だから」

「そうなのか」


やはり、あの正体はアヴァロンの主、花の魔術師ことマーリンだ。アーサーの剣の師であり、アーサーをブリテン王に即位させた立役者だ。女関係のもつれからアヴァロンの塔に閉じ込められているが、夢魔の血を引くマーリンは魔術師として、恐らく世界のあまたの伝承の中でもトップレベルの実力を誇る。


「アーサーが存在してることから、アヴァロンの実在性も確認された。なら、そこにマーリンもいるはず。そしてアーサー同様、マーリンは『死んでいない』存在だし、アヴァロンは永遠の理想郷、時間の概念が現実世界と異なる。つまり、今のカルデアのように時空から切り離されてる空間だとすれば、俺に干渉できるのも説明がつく。ていうか、それくらいじゃなきゃ、今のカルデアに干渉できるヤツなんていない」

「相変わらずの推察だね。僕も同じ考えだ。何よりも、マーリンらしいろくでなしっぽさだったしね」

「……え、マーリンってやっぱろくでなしなのか」

「グランドクラスのろくでなしさ」

「ふ、そっか。うん、イメージつく」


あまりそこはイメージに相違はない。

正体がマーリンだと分かったところで、今度は睡魔が首をもたげる。時間も遅いし、明日は早くから訓練の予定だ。


「…アーサー、このまま寝ていいか」

「もちろんだとも。また嫌な夢を見ても、僕が起こしてあげるから、安心して眠るといい」

「…ん、大丈夫、多分。アーサーがいるし」


眠くなってきたため、呂律も怪しい。
「おやすみ、マスター」と優しく言ってくれたアーサーに甘えて、そのまま目を閉じる。普段は寝つきの悪い唯斗だが、恐らくこのまますっと眠りに入れるだろう。

そして、今日はもうあんな夢は見ないという確信もあった。それに今後あのような夢を見ても、きっとさほどのダメージも受けない。
アーサーが隣にいて、支えてくれる者たちがいる。そんな過去の唯斗とはまったく異なる、恵まれた場所であるここならば、大丈夫だと思えた。


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