孤独と孤独−7
翌日、朝から唯斗はシミュレーター訓練を行うことになっていた。
シミュレータールームに入れば、すでにそこには今日一日一緒に過ごすアーラシュが立っている。
「おはよう、アーラシュ。待たせたか」
「おはようさん、いや、時間通りだぜ。俺ぁもともとシミュレーターに常駐してっからな」
「君といいロビンフッドといい、シミュレーターが好きだね」
システムの調整をしていたロマニに「まあな!」と快活に笑うアーラシュは、確かにあまりカルデアで姿を見かけない。好きにさせているため気にしていなかったが、どうやらシミュレーターに籠っているようだ。
そういうサーヴァントは珍しくなく、自身が過ごしていた環境に近い空間でゆっくりとしている者も多いらしい。アーサーもよくシミュレーターを使っている。
「今日は君たちに、1対1の訓練も兼ねて新しいシミュレーション空間のテストもしてもらいたい。といっても、いつも通りでいいんだけどね」
「新しい空間?」
「エネミーに新しいものを加えたのと、気候環境を少し厳しくしてある。幸い、今まであまり目立った悪天候には、第三特異点で限定的に経験したくらいしか遭っていないだろう?今後の事も考えて、もう少し悪天候も想定できる環境にしてある」
「ん、了解」
シミュレーター用のコフィンに入って準備を済ませると、アーラシュも同様に慣れたようにコフィンに入る。ロマニのシステム調整が終わり、蓋が占められると、レイシフト前のような環境になる。
実際には、体はここに残るため、意識だけが別世界に転移するようなイメージだ。
そうしてシミュレーターが起動し、少ししてから目を開くと、そこは鬱蒼とした森だった。
『起動は無事に完了したね。どうだい?今回は、痛覚を除いてかなり五感の感度を高めにしているんだけど』
「あぁ、確かにいつもより肌に感じる温度があるな、寒い」
『悪いね、体を動かしてあったまってくれ』
「しれっとスパルタなこと言うよな」
ロマニにそう返すと、隣に立つアーラシュを見上げる。「よろしくな」と笑ったアーラシュの爽やかな笑顔に面くらった。
「よろしく…っと、早速来たな」
木々の奥から現れたのは複数のエネミーだった。ウェアウルフとキメラだろう。中型メインに、大型が何匹か、トータルで10体はいる。
「どうするマスター、いったん任せるぜ」
「…分かった。じゃあ、アーラシュは飛び出してきそうなヤツや敏捷性の高い個体から優先的に。俺は一定距離以内に入ったヤツを止める。倒せれば倒すけど、たぶん連続して倒すには固そうだ」
「了解」
爽やかに言うわりに、アーラシュはどうやらこちらの品定めをするつもりらしい。いや、彼としては「魔術師としてどの程度守るべきか」を見極めるためであって、唯斗の実力を疑うというよりは、自身の身の振りを唯斗のプライドや実力などに鑑みて決定するのだろう。相当に唯斗の意思を尊重しようとしてくれている。
とはいえ、悪い言い方をすればやはり品定めのようなものだ。
それならばこちらも、ペルシアの大英雄の実力を拝見させてもらおうと、右手の人差し指を向ける。
途端に、ウェアウルフが1匹飛び出してきた。いや、飛び出そうとしたが、一瞬でアーラシュの矢が貫いた。次々とアーラシュは弓矢を放つ。
アーラシュは女神アールマティの加護によって、魔力を削ることで一瞬かつ無数に矢を生成・装填できるのだ。
その合間にこちらに飛び掛かってくる個体にガンドを放ち、それでも怯まず迫るキメラには結界を展開して接近を防ぎ、その隙にアーラシュが仕留める。
そうやって、僅か5分ですべての敵が掃討された。
「これで全部だな。やるなぁマスター」
「今のは、正直アーラシュ一人でもなんとかなったな。キャスターかランサーがいれば効率よかったか」
「そうだな、お察しの通り、セイバーにちょこまかされんのは得意じゃねぇな。なるべくマスターのそばで控えながら、俺が取り逃がしたヤツを仕留めてくれるキャスターやランサーがいれば助かる」
「分かった。キャスターは癖があるから、ランサーと合わせよう。囲まれたときの数や空間にもよるけど、背面や別の方面にセイバーとかアサシンを配置する形だな。基本、囲まれたら、アーサーとアーラシュを対面において、サンソンとディルムッドでフォローにするか」
アーラシュを含む戦闘方法をとっとと検討し終えると、アーラシュは感心したように唯斗を見下ろす。
「予備員だなんて言ってるわりに、随分しっかりしてんだな。魔術も頭の回転の速さも、十分、グランドオーダーに相応しいんじゃないのか?」
「どうだろうな。なんにせよ、事実として俺は予備だ。それは変わらない」
そう言った唯斗にアーラシュは不思議そうにするが、この環境のテストでもあるため、唯斗は「行くぞ」と言って進みだす。今日は一日、この空間を歩き回ることになっているため、まずは森の中で落ち着けそうな場所を探したかった。