孤独と孤独−8
その後もシミュレーションは続き、現実と連動する空は暗くなった。もう夜となったようだが、夜のデータも欲しいというロマニに付き合って、断続的な戦闘を行いながら夜を迎えている。
さすがに休憩を入れようということになり、森の中の倒木によって開けた場所に出る。
「よし、ここらで休憩にするか。マスターは火ぃ焚く必要あるか?」
「…そうだな、なくてもいいけど、ちょっと寒いし。今用意する。ヴィアン」
左手を開けた場所の中心にかざし刻印を起動すると、近くの地面から枝が転移してくる。綺麗に葉のついた枝だけを避けているのは、水分を含んだそれを火にくべると煙が多く立ってしまうためだ。
「おお、いつ見てもすげぇな」
「…まぁ、俺がすごいわけじゃないけどな」
なんと返せばいいのか分からず、素直にそう述べる。事実、この魔術刻印は代々受け継がれてきたものであって、唯斗が己の力で取得したものではない。
備品などはコフィンに携行したものが再現されるため、持っていたライターで火をつける。すぐに焚火ができたため、近くにちょうど椅子になるように倒れている倒木の上に、アーラシュと並んで腰を下ろした。
パチパチと爆ぜる焚火を見る二人の間には、沈黙が落ちる。付き合いが長く沈黙が苦ではないエミヤやサンソン、アーサー、意外とお喋りなディルムッドやギルガメッシュと違い、アーラシュはまだ距離感が掴めない。人好きのするはずの人物なのだが、彼はどこか、人との間に線を引いている。それを超えてしまうラインがどこなのか、まだ唯斗には分からなかった。
「…あー…、悪いな、アーラシュ。俺、喋るのあんま得意じゃねぇんだ」
「いや、俺こそ悪い」
それに対して、意外にもアーラシュは謝った。てっきり、気にするな、というようなことを言って笑い飛ばし、ちょっとした世間話や好きな食べ物のような話題を振ってくるかと思っていた。
「俺は別に、話すことはまったく苦手じゃない。でも、あれだな、お前さんは聡い。俺との距離に慎重になってくれてるんだよな。気ぃ遣わせて悪いな」
どうやら、アーラシュは唯斗が踏み込めないラインを探って動揺していることを理解していたらしい。そこまで完璧に隠せなくて悪い、というようなニュアンスだろう。
それこそ謝るようなことではない。唯斗はマスターとして、自分から歩み寄ることにした。みんなに背中を押されてキャスターやランスロットに話しかけに行ったように、自分から動くべきだ。
「…謝ることじゃない。俺も、お前がなんか話題振ってくれるって甘えてた。さっきも言った通り、俺はそういう雑談とか、うまくできねぇけど…英霊のことや歴史は、勉強するのが好きだった。だから、アーラシュのこと、聞いてもいいか」
「…あぁ。もちろんだ」
まだ少しだけ勇気が必要だったが、アーラシュは微笑んで頷いてくれた。
確かにこうして話すことは得意ではない。しかし、嫌いでもなかったのだと、カルデアに来てから知った。
まずはアーラシュの伝承、古代ペルシアの時代の話を聞き、イランの悠久の歴史は本物だったと軽く感動しつつ、アーラシュが面白おかしく話してくれたこともあって案外会話が進む。
やがて話は、サーヴァントとしての話題に移る。言動から、これが初めて現界ではないことは分かっていた。
「アーラシュは、前にもサーヴァントとして召喚されたことがあるんだよな」
「あぁ。前のマスターは多分、女だったと思う。そんときはあの騎士王さんもいたぜ」
「……え、アーサーが?」
さらっと驚愕の事実を口にしたアーラシュを見上げる唯斗の顔が呆けていたからだろう、アーラシュは苦笑する。
「まだ騎士王さんは言ってなかったか」
「…アーラシュとの会話で俺が知ることになるとでも思ってたんじゃねぇかな。いや、別に二人が過去に出会ってたことがあろうとなかろうと関係ないけど…なんか若干腹立つ」
「ははは、まあいたずらにマスターを悩ますこともないしなぁ。あの騎士王は異世界の人間なんだろ?俺も多分、この世界線にいた自分として召喚されてたかは分からない。記憶が曖昧なのはそれもあるかもな」
「意外と世界と世界の間ってアバウトっていうか、なんでもありだよな。もうそのあたりは諦めた。俺たち人間には想像もつかないってことだけだ」
「そういう認識の方が楽なんじゃねえか?」
「それは一理あるな」
いったいどういう原理なのかはもう分からない。特に、システムで召喚しているカルデアは、聖杯が呼び出す聖杯戦争とはまったく異なるイレギュラーな召喚をしている。何が正しい、ということはとても測れないし、きっとそれに意味はない。
ひとしきり話したところで、今度はアーラシュが「なぁマスター」と問いかけてくる。焚火から視線を右側に向けると、アーラシュの真剣な眼差しがあった。