孤独と孤独−9



「マスターは、なんのために戦うんだ?予備員っていう立場もそうだが…昨日、俺はマスターと夢を共有した。あれはマスターの過去だろう。マスターにとって、世界はあまり綺麗なものじゃないんじゃねぇか」


アーラシュの疑問は、唯斗の立ち位置についてだった。予備員という立場、そしてあの夢で経験したような過去しかないこの世界を守るという、モチベーションに欠けているはずのグランドオーダー。
それでも戦う理由を知りたいらしい。アーラシュは、マスターである唯斗と、戦う理由を共有しようとしてくれているのだろう。本当に優しい人物だと唯斗は改めて感じる。


「…あの夢で見た通り、俺の父は、俺を生んで亡くなった母を甦らせるために、代々神秘として受け継いできた召喚術を応用して死者蘇生を行おうとした。俺は単にその道具でしかなくて、フランスでひどい言動を受けても、日本でろくでもない生活を送っていても、誰にも助けられることも守られることもなかった。あの日、父が俺を触媒にしたとき、初めてアーサーが俺を助けて、守ってくれたんだ」

「あの花の魔術師じゃなく、騎士王さんだったわけだ」

「本当はな」


夢にアーサーは出てこなかったが、実際には唯斗を助けたのはアーサーだ。


「父の召喚術で一時的に現れたアーサーが俺を助けてくれた、あの一瞬だけが、俺の人生にとって唯一の幸せな時間だった。次にアーサーと再会したときには、もう世界は滅んでたけど」

「騎士王さんを召喚したのは、15世紀フランスの特異点を解決したあとだったか?」

「そうそう」


きちんとこれまでの記録を閲覧していたらしいアーラシュの認識は正しい。
思えば、唯斗自身、こうしてグランドオーダーをきちんと振り返るのは初めてかもしれなかった。


「カルデアが爆発して、特異点Fのレイシフトに巻き込まれて、俺はなし崩し的にグランドオーダーに参加することになった。別に生きたいわけでも死にたいわけでもなかったから、時空から切り離されたこのカルデアでしか生きられないのなら、できることはしなきゃならない。ただそれだけが俺のモチベーションだったし、予備員って立場は都合が良かった」

「…、」


あまりに自分の命に対して執着がない唯斗の言葉に偽りはなく、アーラシュは痛ましそうにしつつも、しかし唯斗の続きを待つ。


「…きっかけは、立香が夜に泣いてるとこを見たときだった」

「正規マスターか。そりゃ、こんな状況じゃそうなるよな」

「あぁ。普通はそうなって当然だけど、魔術師は普通の人間じゃねぇし、俺は特にそうだった。世界が滅ぼうが救われようがどうでもよかった。でも、立香は帰る場所があって、待ってくれる人がいて、俺と違って、多くの人に求められる人間だから。だから、俺は、立香はちゃんと元の世界に戻らないといけない人間なんだって、初めて自覚した。予備員としての俺の存在意義は、立香の後ろに立って安心させてやることと、いざというときに立香の身代わりになることだ」

「…マスター、」


それは違う、と言いたそうにしたアーラシュを制する。薄く笑った唯斗に、アーラシュは言葉を止めた。


「それが第二特異点へのレイシフト直前のことだった。それ以来、俺は合理的に、立香が必ず帰れるように意識してたから、何度か立香と衝突したけど、第四特異点まで人理を修復してきた。でも、第四特異点で、俺はなぜか大怪我して死ぬ手前までいってたのに、ニコラ・テスラと対峙した。それまでの俺の考え方だったら、絶対、そんなことはしなかったのに」

「…記録は見た。ギリギリ致命傷じゃなかったってだけだっただろう」

「あぁ。あのとき逃げなかったのは、俺たち人類に、暗闇を怯えなくていい世界を与えてくれて、それを願ってくれたあいつに、文明を終わらせる仕事をさせたくなかったからだった。俺も、あの戦いで初めて、俺にもきちんと戦う理由があったんだってわかった。まぁ、まだ曖昧なんだけどな」


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