孤独と孤独−10


あのとき強く突き動かされたのがなぜだったのか、まだ言語化は難しい。だがあのとき戦った理由は、第一特異点からずっと変わらず唯斗の心にあったように思う。


「…それにしてもマスター、その、人理を取り戻しても、戻ってきた世界は、あんたにとって居心地のいいもんじゃないのは変わらないだろう。それでも頑張るのって苦しくねぇか。あんたは一人じゃない、たまには弱音吐いていいと思うぞ、俺は」


唯斗には唯斗自身の戦う理由がある、それが具体的になっていなくてもアーラシュは良かったようで、そのまま受け入れてくれた。
そのうえで、居場所のない世界を救うために戦う虚しさを抱えて努力するのは苦しいだろうと、それを吐きだしていいのだと言ってくれている。

本当に、まさしく英雄の鑑だ。


「…一人じゃない、か。アーラシュが言うと含蓄があるな」

「そうか?」

「孤独の大英雄、アーラシュ。イランの詩にはそう語られてる。神代の終わり、あんたは人の時代に切り替わる前の最後の英霊だった」


アーラシュの時代には、もう世界は人間のものになろうとしていた。神代は終わり、世界は人類の手で開拓されようとしていた。
ニコラ・テスラやドレイクのような星の開拓者たちへと至る、連綿と続く人類史の時代だ。

そんな過渡期にあって、アーラシュは、最後の神代の英霊にあたる。


「…あぁ、そうだな。俺には配下はいても仲間はいなかった。誰もが英雄たれと俺に願ったし、事実そうなった。そういう意味では、孤独だったのかもしれねぇな。人間はみんな、守るべき相手だから」


焚火に照らされるアーラシュの精悍な横顔は凪いだ表情で、過去を思い返しながら語った言葉は、それこそ神霊のように、人間の理から離れた孤高の存在のようだった。


「…あんたが矢を放って消失しなくても、その後の世界であんたは一人だった。それと同じだよ」

「マスター…そうさな、そうかもな」

「だろ?…孤独になると分かってて戦うのは…案外、この世界は悪いもんじゃないんだなって思ってるからなのかもしれない」


漠然と、第四特異点で感じた感情を言葉にする。そう、もうすでに、唯斗はこの世界をそう悪いものだと思っていない。ただ居場所がない寂しい世界だとは、思っていなかった。


「仲間っつったって、結局は一人と一人だ。一緒に戦おう、孤独の戦士アーラシュ。あんたは一人だったし、俺も一人だったけど、ここでは違うから。たまには肩並べて世界守るのもありだろ」

「…ッ!はは、こりゃ、完敗だ」


隣を見上げて言えば、アーラシュは面食らったような顔をしてから、そう苦笑する。そして、おもむろに唯斗を抱き込んだ。
右側に倒れるようにアーラシュに抱き込まれ、唯斗は慌ててその逞しい上体に腕を回して体を支える。


「う、わ、なにすんだ」

「他の名だたるサーヴァントたちがあんたに惚れこむわけだ。俺のマスター運はいいらしい。召喚に応じて正解だったな」

「…アーラシュにそう言ってもらえるのは、素直に嬉しい」


東方の大英雄、中東にその名を轟かせる伝説的な英霊にそう言ってもらえることは、唯斗の方こそ光栄だった。
いつの間にか防具を消していたアーラシュの体は体温が高く、抱き込まれるのは夜の寒さを和らげるようで、心地が良い。


「……ふ、アーラシュはあったかいな」

「お、そうか?いつでも温めてやるからな。あれだ、電子レンジ、だっけか?」

「熱量高すぎだろ」


アーラシュの腕の中でくすくすと笑う。先ほどの気まずさは完全になりを潜め、気軽さがその場に満ちていた。
きっと、唯斗の心の壁そのものが、少しずつ、外の世界に対して低くなっているのだろう。それは、存外悪くないと、そう思えた。


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