この時間の先に−6
含みのある言い方をしたギルガメッシュを見上げたが、盃にどこからか注いだ酒を飲みながら唯斗のチョコを食べており、こちらの質問に答えるつもりはないようだ。
ギルガメッシュは何か目的があって召喚に応じた。その目的がいったい何なのか、いまだに明かされていないが、ギルガメッシュはカルデアの運営にも協力してくれているらしく、先ほどもシステム維持のためのタブレットを弄っていた。
それなら、特に追及する必要もないだろう。
正直、唯斗はなんとなくギルガメッシュの目的を察している。恐らく、ソロモンの影響が何らかの形でウルクにも及んでいるのだ。ただ、古代シュメール文明はソロモンの時代よりもさらに2000年近く古いため、遡って干渉できるのか定かでない。特異点化しているかまでは予想できなかった。そうだとしても、そもそもギルガメッシュは実在した人物か歴史学でも定まっていないため、時代の特定ができない。それができるなら、教科書を改訂する必要があるほどだ。レフが作ったシバをもってしても確かめることは極めて難しいだろう。
ただ、ギルガメッシュはそのソロモンによる干渉に対してカルデアが機能するかどうか品定めに来ており、情報収集をしているのではないか、それが唯斗の見立てだった。
いずれにせよ、これはすべて不確定情報のため、口にはしていないし、しばらくは黙っている予定である。
気を取り直して、唯斗はサイドテーブルに置かれた盃を見遣る。二つの盃のうち、片方はギルガメッシュが飲んでいるため、もう片方は飲んでいいという意味である。それを無視するとまた不敬だなんだとうるさいだろうことから、唯斗はその盃を手に取って酒を喉に通した。
「うっ…やっぱ古代の酒は強いな…」
喉を焼く感覚に度数の強さを思い知る。ギルガメッシュは小ばかにしたように笑うが、顔を赤くするこちらを見て、今度はニヤリとした。
「貴様がどうしても我の力を必要とし、どうしても貢ぎたいというのであれば、それを受け入れてやるのも王の義務というもの」
「…?」
何を言いだすのかと思って出方を伺っていると、突然、唯斗の腰をギルガメッシュの手が撫でた。防具が消えた手がシャツの隙間から唯斗の肌を撫で、ぐいっと引っ張られてギルガメッシュの体にもたれる形になる。
ベッドヘッドあたりにもたれていたギルガメッシュの上から被さる姿勢は良くない気がしたが、一口だけの酒が頭に回って力が入りづらい。
「な、にして、」
「そも、男の寝室で寝台に腰を落ち着けたのだ、食われても文句は言えまい」
サンソンやエミヤの注意が遅ればせながら頭に浮かぶ。
やらかした、と唯斗は慌てて離れようとしたが、キャスターとはいえギルガメッシュに敵うわけもなく、その手が背中を撫でる。
「んっ、ちょ、マジでやめろ、」
「不敬な。王の寵愛を賜れること、喜びに震えるところであろう」
耳元で低く囁かれ、びくりと肩が跳ねる。本当にまずいと脳が警鐘を鳴らすが、唯斗を抱き込むギルガメッシュの太い腕はびくともせず、令呪を使うことも考え始めた、そのときだった。
「ウルク王の兄さん、邪魔するぜ」
「……王の居室に勝手に入るとは、パルスの弓兵はそうも粗忽であったか」
部屋に入ってきたのは、なんとアーラシュだった。平然と扉をくぐって中に入ると、呆れたように唯斗を抱き上げてギルガメッシュから奪う。
力強くアーラシュの腕に抱えられてギルガメッシュのベッドから脱出させられると、童顔の男前がニカっと笑う。
「貞操は無事か、マスター」
「あ、あぁ…ありがとう、助かった」
「フランスの処刑人の先生に、未来視でマスターを確かめるように言われてたんだが、大正解だったな。あと10分もすれば、グズグズに抱かれてたぜ」
「10分……なんつー技量だ……」
「ぶはっ、そういう問題じゃねェだろ」
噴き出してけらけらと笑うアーラシュと、呆れたようにするギルガメッシュ。場は緊張することもなく、ギルガメッシュはため息をついて手をひらひらとさせる。
「もうよい、興が削がれた。疾く失せよ」
「おう、じゃあな」
「あ、ギルガメッシュ、ロンドンで助けてくれてありがとな。いつかあんたの力になれるように頑張る」
アーラシュの腕の中から振り返ってそう言うと、ギルガメッシュはキョトンとした。案外よく表情が動く人物だが、唯斗がギルガメッシュの目的を察していることを初めて知ったのか、また脱力する。
「貴様は…まったく、この我をこうも振り回すとはまったく万死に値する行為だぞ、本来は」
「マスターは特別ってことかい?」
「黙っていろペルシアの弓兵よ。おい雑種、第四特異点のような方法、何度も通用すると思うなよ」
「二度と御免だあんな痛いの」
フン、とまた鼻を鳴らしたギルガメッシュはもう喋る気がないようで、唯斗はアーラシュに連れられて部屋を後にした。