この時間の先に−9


「そういえばアーサー、相変わらずサーヴァントたちとは関わろうとしてないんだな」

「…そう、だね。何か言われてしまったかな」


聡いアーサーはすぐに唯斗がなぜこの話題を切り出したか察している。その通りで、唯斗は以前、このことで何人かから指摘を受けていた。


「フランのことを無視したってモードレッドから、ブラダマンテにサインするのを言葉もなく断ったってアストルフォから報告受けてる。ランスロットたちも関わろうとしてないようだって聞いてるな」

「そ、そうなのか…いや、うん、そうだね、紳士にあるまじき行為だった」


立香が新たに召喚したフランケンシュタイン、通称フランはモードレッドと仲が良いが、そのフランやブラダマンテがアーサーにすげなく扱われたと苦情が来ている。


「まぁ、正直サーヴァント同士の関係まで口出す気はないし、モードレッドとアストルフォには、気にくわないことあったなら直接殴っていいって返したら納得してたから、別に構わない」

「…夜道には気を付けるよ」

「アサシンじゃないんだし、正面から殴られるだろ。安心してもっと男前になってこい。でも、非礼分以上は食らうなよ」

「当然だよ、君のセイバーだからね」


それにしても、礼を失するほどあからさまに避けようとするとは、アーサーにしてはスマートではない。
いや、そもそも基本的なことにそつがないというだけで、アーサーが決して完璧な人間なのかと言えば、決してそうではないのかもしれない。どうも、かつて助けてくれた印象が先行するからか、唯斗にとってアーサーはとてつもなく完成された人物だと思っている節があるし、それは概ね正しいだろうが、果たしてこの世界に完璧な人間などいるのだろうか。


「…そんなに、自分がこの世界にとって異分子だっていう立場は、この世界に影響するものなのか?」

「……いや、相手は英霊だ、僕がなんであろうときっと影響なんてない。ただ僕が、単にこの世界の人間ではないから、あまり干渉しないように心掛けているだけだよ」

「だろうな。そんなことで影響が出るなら、このカルデアにいる英霊たちだけで人理が狂ってる」

「それでも、僕は目的を果たしたらこの世界から弾き出されてしまうだろう。文字通りの爪弾き者さ」


ビーストを倒すというアーサーの目的が果たされれば、アーサーは本来の世界線に戻るだろう。いなくなってしまう存在なら、なるべくこの世界の者たちとは関わらない方がいい、というのは、理解できる感情ではあった。


「さっき言った通り、そういう距離感とかは各自に任せる。アーサーがそうしたいならそうしていい。でも…そうだな、目的を果たした先で世界の爪弾き者になるのは、俺も同じだよ」

「ッ…!」


隣で息を飲むアーサーをそっと見上げる。目を見開いたアーサーに、薄く微笑んだ。


「こんなバレンタインなんてやるのは、今だけだ。きっと、カルデアを出たらやらないと思う。こうやってサーヴァントたちに感情の機微を教わって、人間的な成長を俺はしてるんだろうけど、俺にそれをもたらしてくれたヤツらとは、グランドオーダーが終わればお別れだ」

「マスター…そうだね、うん、そうだ。君は、それでも戦う覚悟を決めているんだったね。そんな君に言われたら、覚悟を決めるしかないか」


アーサーはそう言って、いつの間にか食べ終わっていたチョコレートの袋をゴミ箱に捨ててから、唯斗の頬を撫でる。
部屋に入ってきたときから甲冑は消していたが、左手の白い指が頬を撫で、右手は唯斗の腰に回って抱き寄せられる形になる。

覚悟を決めるというのなら、アーサーはきちんとこの世界の者たちとも向き合う姿勢になるつもりなのだろう。さっきはああいう言い方をしたが、余計な軋轢はない方がいいに決まっている。唯斗が言ったから、というのは少し気が引けたが。


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