北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−1
第五特異点の座標特定フェーズに入り、あと1ヶ月ほどでレイシフトに入れるだろう、という頃、唯斗はロマニやダ・ヴィンチの勧めで、ライダークラスの召喚を行うことになった。
それというのも、第五特異点からは立香と離れての行動を基本とする方針になったからだ。
第四特異点で強制的に立香と唯斗は別行動をすることになったが、それでもきちんとマシュが立香を守って、立香もサーヴァントたちを従えて戦うことができていたことから、唯斗がそばで守りつつ共闘する形に拘らなくてもよくなったのだ。
それだけではなく、ロンドンの魔霧によって唯斗が危うく致命的な影響を受けるところだったことから、まず立香が先行し、その後唯斗のレイシフト座標を設定するという流れになったことで、二人がそれぞれ別々に行動し効率的に特異点攻略を行うという方針になった。
そうすると、緊急時の離脱手段が必要になる。移動に秀でたライダークラスのいない唯斗は、退避行動を立香のサーヴァントに頼る場面もあったため、自前で逃げられるようにする必要があった。
第四特異点では自分がいなくても立香だけで十分だという現実に少し気が滅入りそうになったが、立香もロマニも、「一人でも大丈夫」ではなく「二人なら効率的」という、至極当然の考え方をしている。
唯斗が勝手に落ち込んでいたのが馬鹿らしくなったものの、そんな彼らに救われたのも事実だ。
そうして召喚した初のライダークラスのサーヴァントは、唯斗も、見守っていたロマニとダ・ヴィンチ、立香とマシュも驚くべき相手だった。
「サーヴァント・ライダー、真名をアキレウス。お前さん、俺を引くとは運がいいな」
「アキレウス…!」
古代ギリシアにおいて、ヘラクレスに並ぶ最大の英雄・アキレウスだ。
ホメロスが描いた古代ギリシア最古の叙事詩・イリアスの主人公であり、その弱点に由来して、アキレス腱という名前の由来となった人物である。
「す、すごいじゃないか唯斗君!英雄の中の英雄だ!」
「ほ、本物…」
「おう、俺こそがアキレウスだ。よろしくな、マスター」
「あ、あぁ…俺は雨宮唯斗、よろしく…」
思わずまじまじと目の前で召喚サークルに立つ背の高い精悍な男を見つめてしまう。
緑色の髪を立たせ、古代ギリシアの甲冑を胴に纏い、オレンジ色の布をたなびかせる。唯斗より15センチは背が高く、体格の良さはまさに神話の英雄だ。
「実は女だったってことも、男の娘ってわけでもないし、オタクでも恋愛脳でもないんだな…」
「いやどんなだよ、確かにオデュッセウスに見つかるまでは女装させられてたけどよ」
「ちょっと、そういう解釈違いな英霊と出くわすことが多くてな…安心した、仮に敵に回っても人を肉壁にしようとするタイプじゃなさそうだ」
「なんだそりゃ」
顔をしかめたアキレウスに、そういえば例に出した人物とはいまだにほとんど喋っていないな、と思い至る。
立香が召喚したヘクトールは、アキレウスの宿敵でもあるが、第三特異点で唯斗を拉致した。その記録を見て、ヘクトールは唯斗を避けているようだった。
カルデアに来たサーヴァントは、立香と唯斗はそれぞれ互いに挨拶するようにしているが、ヘクトールに対してあまりに唯斗がぎこちなかったため、ヘクトールの方が遠慮しているようだった。
立香とマシュはほぼ正面から戦っていないため、別物として捉えているが、唯斗はまだ少し怖いと思ってしまう。それを気にしてヘクトールは近づかないようにしてくれているようで、それもまた心苦しかった。
唯斗とて、ヘクトールに対する憧れは強かったのだ。
「いや…ヘクトールがな、特異点で敵だったんだ。俺、ヘクトールに捕まってアステリオスに対する肉の盾にされてさ…」
「げぇっ、あいつそんなえげつねーことを…いややるか、あいつなら。安心しろマスター、次そんなことがあったら俺が必ず助け出す」
ニカッと笑ったアキレウスは兄貴肌といった感じの人物で、アーラシュと似ているが、アーラシュよりも少年っぽいような風体だった。
「アキレウス、俺もここでマスターをしてる藤丸立香っていうんだ。俺のサーヴァントには、ヘクトールとケイローンがいるんだけど、大丈夫かな」
「先生もいんのか!すげーな、なんとなく状況は理解しているが、それでもこんだけ揃うってのも珍しいモンだろ。それにアタランテもいるんだな」
立香も、最近は古代ギリシア組がよく召喚されたことでイリアスなどを唯斗にたたき込まれているため、英霊たちの関係性にも気を遣う。
アキレウスに気を遣ったようだったが、アキレウスはあまり気にしたようではなく、気配でアタランテがいることも知っているようだった。
「今回は全員味方だろ、別に気にしなくていいぜ。あいつらだって自分の役割分かってるだろうしな。でも機会があったら戦わせてくれ。あ、先生は別だ」
「呼びましたか」
「げぇッ!」
先日立香が召喚したケイローンはアキレウスの師範だった人物だが、立香と唯斗にも先生として振る舞ってくれていて、その言動の片鱗からアキレウスがどんな教育を受けていたか想像に難くない。
いずれにせよ、実に頼もしいメンバーがカルデアにそろい踏みしている。来る第五特異点にも、万全の体制で臨めるだろう。