北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−4
無事にレイシフトは成功し、唯斗とアーサーも北米の地に降り立った。
第三特異点の海上を除けば、フランス、ローマ、ロンドンと欧州が続いていたため、今回初めて他の大陸にレイシフトしてきたことになる。
「季節は夏の終わりってとこか、もうすぐ戦争が終わるころ合いだな」
「1783年の9月に終戦条約が締結されるんだったね」
「そう。っつっても、実際には小規模な戦闘を除けば1782年にはほとんど戦争は終わってた」
1781年のヨークタウンの戦いによってイギリスが降伏し、東部主要都市に英軍は残ってはいたものの、すでにイギリス議会は休戦ムードになっており、1782年の春には休戦法案が通過している。
『唯斗君、無事だね。指定した座標にあるキャンプに移動してくれ』
「了解。立香のバイタルは?」
『問題ない、合流したら治癒魔術を頼むね』
「分かった」
ロマニに通信で返すと、唯斗はアーサーを伴って移動を開始する。
晴れ渡った空は夏の終わりを感じさせる乾いたものだが、少し暑いのは南部だからか。乾燥したステップ気候は、メキシコに近づくほど砂漠に様子を変えていく。
広大な平原に点在する背の低い植物の合間を縫って歩いて行くと、すぐに目的のキャンプが見えた。粗末な幌で作られたテントがいくつか並ぶそこは、見張りに人間の兵士、独立革命における合衆国軍の服装を身にまとった者たちがいた。
「とまれ、何者だ」
「少なくともケルトじゃないのは見て分かるだろ。敵対行動をとるつもりはないし、あんたら一般市民はむしろ保護対象だ」
見張りの男はマスケット銃を両手に抱えてこちらを見て、アーサーに視線を移して警戒を解いた。あからさまにアングロサクソン系な見た目をしているためだろう。
「味方かは分からないが、少なくとも敵じゃないならいい。同じような服装の少年を保護している、そういう指示だからな」
「恩に着る。この分は返す…が、指示ってなんだ?」
「このキャンプにいる、戦場の天使の指示さ」
戦場の天使、それが差す意味が分からなかったが、まずは立香が優先だ。
キャンプに足を踏み入れると、すぐにアーサーが小声で告げる。
「藤丸君がいるテントはあそこだ。同じ場所に、サーヴァント反応がある」
「サーヴァント…?野戦病院だろ、あれ。…待てよ、野戦病院に、天使…」
その組み合わせに、とある英霊が思い当たるのはまったく不思議なことではないだろう。
唯斗は足を進め、テントに入る。途端に、血と据えた膿、濃い消毒液の匂いが鼻をついた。思わず息を止めるが、中の様子は思ったほど惨憺たるものではなかった。
かろうじて清潔に保たれた敷物が敷き詰められた場所を動き回る、赤い軍服の女性。長い髪を後ろでくくったその人物は、てきぱきと一心不乱に看護にあたる。
その奥に、横たわった立香の姿が見えた。マシュは近くにいて、少し女性を警戒して見ていた。
「っ、唯斗さん!」
「マシュ、待たせた。立香の様子は、」
「そこ!不潔な状態で患者に近づかないでください」
鋭い声で言われて思わずびくりとしてしまう。凛とした声をしている女性の言葉に従い、唯斗は土がむき出しになった通路らしきところをそっと歩いた。
もうすでに女性の興味は薄れたようで、こちらに意識は向けていない。
とりあえず唯斗とアーサーは奥に向かって、立香の隣に膝をついた。意識は取り戻している。
「マシュ、治癒するから回線をオープンに切り替えておいてくれ」
「はい、了解しました」
マシュは自身と立香の通信回線を、カルデアと唯斗との三者オープンに切り替える。
その間に、唯斗の魔術によって粗方立香の怪我は治った。もうすぐに動けるだろう。
「ありがとう、唯斗…怖かったー…」
「…あれはナイチンゲールか」
「なんですか。用もないのに人の名前を呼ばないでください」
「……ある意味イメージ通りかもな」