北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−9


「あなたたちはマスターね。でも残念、あたしたちはすでに主を定めているの。それが王様。彼が世界を制覇すれば、それはそれで問題ないわ。恐らく、どこの次元からも分離した失われた大陸(レムリア)となって、彷徨い続けるのでしょう」

「そんなもの、治療とは認めません。悪い部分を切断して、それで済まそうなどと」


どうやら王様とやらは、この特異点を正史から切り離して魔術王の焼却から逃れさせるつもりらしい。どこかで聞いた方法だ。


「あなたはそう言うでしょうね。そちらのマスターは?」

「絶対にノーだ」

「隣に同じだな」


立香、唯斗が続けて答えると、分かっていたようにブラヴァツキーは頷く。


「じゃあ、あなたたちはフローレンスを連れてどこへ行くの?」

「この世界の崩壊を防ぐために、原因を切除しに行きます」

「そう。それじゃ、あたしの敵ってことになるかしら」


ブラヴァツキーは近代の人物だけあってかなり話の分かる人物であるようだったが、一方で折れるわけにもいかないらしい。
魔術王側で敵対するようではないが、味方として振る舞えるわけでもないようだ。


「あーあ、仕方ない、こちらも虎の子を呼び出さないといけないか」

「っ、マスター!」


突然、アーサーが鋭い声を出す。警戒を最大限まで引き上げたアーサーに驚く間もなく、ブラヴァツキーが衝撃的な言葉を口にした。


「それじゃカルナ、ちゃっちゃとやっちゃってー」

「ッ、そういうことか…ッ!」

「出番か、承知した」


唯斗はアーサーに抱えられ、一気に重力から逃れて空中に舞い上がる。遅れるように通信が入ってきた。


『わっ、君たちの直上にサーヴァント反応!この霊基数値、トップクラスのサーヴァントだ!』


アーサーの腕に抱えられたまま、肩から勢いよく過ぎていく背景を見遣ると、先ほどまでいたキャンプの上空にいるサーヴァントが小さく見えた。
洗練された立ち姿が空中に留まり、腕を上げている。鋭い視線は一度だけこちらを見たが、すぐに眼下の立香たちに戻した。

マハーバーラタの大英雄、カルナで間違いない。
とんでもない大物がでてきたこと、ブラヴァツキーの存在、それらからすぐに唯斗は北米に召喚されているサーヴァントの性質を理解した。

その直後、カルナの瞳から放たれた光線がキャンプを直撃した。カルナが人々を殺すことはないだろうから、あれは光こそ眩くとてつもないもののように見えるが、実際にはさほどの攻撃力を持っていないだろう。
間違っても、立香たちが死ぬことも、キャンプが機能を失うこともない。

空に飛び上がったアーサーは、キャンプから離れた平原に着地し、唯斗を抱きかかえたままキャンプを見つめる。どうやらこちらを追いかけることはしないらしい。


「マスター、怪我はないかい?」

「大丈夫だ、アーサーが一瞬早くカルナの接近に気づいてなきゃ逃げられなかった。それにしても…これは神話と神話の戦いってわけだな」

「ケルト神話とインド神話ということだね」


ケルト神話のフィンとディルムッド、そしてケルト兵たち。インド神話のカルナ。
さらにブラヴァツキーは、特にインド神話への傾倒が強く、また米国に暮らしていたこともあったため、召喚されていることには納得だ。


「ロマニ、立香の様子は」

『バイタル問題なし、でも意識はない。マシュとナイチンゲールもだ。まとめて拘束されている』

「拉致する気だな。俺はしばらく距離を置くけど、立香たちから一定の距離につけたい。ナビ頼む」

『了解だよ。通信はオープンのままだ、ブラヴァツキーたちにそこまで敵意はないようだから、ついでに情報収集も行おう』

「そうだな」


ロマニから通信機にマップが送られてきて、南へと進むことになる。立香たちはロボット兵たちの引っ張る荷台に乗せられて進んでいるらしい。
ここは現代のワイオミング州、ウィンド・リバーリザベーションというインディアン自治区に位置する地域だ。米国中央のやや西よりといったところだろう。
広大な米国をどうやら踏破することになりそうだ。


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