北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−12


そうしてしばらく平原に留まっていた唯斗とアーサーだったが、ロマニから通信が入り、そのあとすぐアーサーも何かに気づいて後方を見遣った。


『サーヴァント反応が接近、敵対的行動は見られないけれど…用心してくれ』

「こちらでも視認した」


アーサーが見えない剣を構え、接近してくるサーヴァントを警戒する。よく見ると、キャンプでケルト軍を襲っていたインディアンだった。
インディアンのサーヴァントは立ち止まると、こちらに呼びかけてくる。


「私は敵対する意志はない!そちらはどうか!」

「…そちらが攻撃しないのなら、こちらも同様だ!」


唯斗が返すと、頷いてサーヴァントはこちらに再び歩み寄ってきた。アーサーは引き続き警戒を続けたが、唯斗たちから3メートルほどのところで立ち止まり、小さく微笑んだ。


「お初にお目にかかる。私は…そうだな、ジェロニモ、と呼んでくれ」

「ジェロニモ…アパッチ族のゴヤ……悪い、部族外には名前を明かさないんだったな」

「なんと、私のようなサーヴァントでもそこまで知っているのか。この大陸に縁があるのか?」

「マスターは世界中の英霊に詳しいんだ。召喚術の名家の出だからね」


アーサーは剣を消しながら答える。警戒は解いたようだ。唯斗が知っている相手だと分かり、得体の知れない相手ではなくなかったからだろう。
このインディアンのサーヴァントはジェロニモ、アパッチ族という北米先住民のシャーマンであり、彼らの言葉でゴヤスレイという。部族外に名前を明かさないため、彼らの個人名が明らかになっている例は極めて少ない。ジェロニモという言葉は、スペイン語で聖ヒエロニムスを意味する言葉で、あまりのジェロニモの強さにおののいたメキシコ軍が思わず守護聖人の名前を叫んだことで定着することになった名前だ。
アメリカ合衆国が成立したあと、西へと拡大していく中で、イングランド系の合衆国とスペイン系のメキシコ帝国の両方を相手にアパッチ族を率いて戦った人物として知られる。


「俺は雨宮唯斗、こっちはブリテン王アーサー」

「唯斗とアーサーだな、よろしく頼む」

「さて、ジェロニモはここに召喚されたサーヴァントだよな。俺たちに接近した目的は?」


早速本題を切り出せば、ジェロニモは頷いて答える。


「知っているだろうが、今この大陸は東西に分かれている。東のケルトは大陸を蹂躙していてとても与する気にはならないし、西の合衆国はそれこそ私が協力できるような相手ではない。だから、どうやって行動しようか思案しつつ、各地に召喚されたサーヴァントたちをまとめていた」

「なるほどな、大義があって動いているわけじゃないと。じゃあ小目標はあるだろ」

「仲間のサーヴァントが重傷を負った。サーヴァントなのに一向に回復しない」

「それでナイチンゲールを探してキャンプや要塞に接近したわけだ」

「話が早くて助かる」


ジェロニモは確かにこの状況では東西どちらにもつけないだろう。
それにしても、各地に散ったサーヴァントたちをまとめているということは、これは第三勢力として期待できるのではないだろうか。エジソンに啖呵を切った手前、唯斗たちも東西両方が相容れない相手だった。


「ちなみに、そのやられたサーヴァントと、やったサーヴァントは」

「負傷した仲間はラーマ、インド叙事詩のラーマーヤナの英雄だ。そしてラーマを破ったのは、ケルトの英雄、クー・フーリン」


インド系のサーヴァントが他にいる可能性は考慮していたが、またとんでもないビッグネームだ。マハーバーラタに並ぶインド二大叙事詩、ラーマーヤナの主人公である。
そしてケルトの方には、これも案の定だが、クー・フーリンがいるらしい。立香もランサーかキャスターか、どちらかを召喚できないかもしれなかった。
だが一方で、クー・フーリンがこのようなことをするとも思えず、もしかしたらジャンヌのようにオルタ化しているかもしれない。それならば、霊基が異なるため召喚も可能だろう。


「ラーマ……それにクー・フーリン……この特異点はどいつもこいつも一級のサーヴァントが集まってるな…そんで、ジェロニモはナイチンゲールを助け出すために要塞に向かっているが、カルナを止める術がないってところだな」

「あぁ。そしてお前たちも、見たところ仲間が欠けている、ナイチンゲールとともにいるのだろう。彼らを助け出すのに、その手段を確保できていない」

「さすが、構造的にリーダーを持たないはずのアパッチ族でリーダーを張ったヤツだな。その通り、俺とあんたは利害が一致している。カルナは引き受けるから脱出の方を頼んでいいか」

「もちろんだ。それにしても、もう少し早く合流していたかったものだ」

「同意するよ」


ジェロニモとそう言って軽く笑い合うと、ともに要塞に向かって歩き出す。眼前の要塞を視界に収めたときにはすでに二人の顔から笑みは消えていた。


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