北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−13


策があると言ってジェロニモが纏った緑のマントは見覚えがあるものだったが、機械化兵の監視もあるため聞くこともできず、ジェロニモはそのまま要塞に入っていった。
あれは恐らく、ロビンフッドの「顔のない王」だ。宝具であり、彼がいつも身に纏っているマントであるが、それを被ると途端に透明化して気配が消える。匂いや音もなくなるため、完全ステルス状態となるのだ。
防御能力がないため、範囲攻撃には弱く、攻撃する際には否応なしに場所がバレてしまうが、それでも工作を得意とするロビンフッドにはうってつけの宝具だ。
どうやら誰かに貸すことができるらしい。


「…てかロビンフッドも召喚されてるのか」

「彼はノッティンガムの英霊だったね。アメリカに縁はあるのかい?」

「俺の記憶には………あー、まぁ、アウトロー文化ってつながりはあるか…?」


イングランドにおけるアウトローの代名詞だ。そしてアメリカは、やはり西部劇やそれに端を発する都市での若者カルチャーに見られるアウトローがおなじみである。


「なんならアメリカ自体アウトローみたいなとこあるしな。さて…そろそろ俺たちも行くか」


通信ではすでにジェロニモが立香たちに合流したことが聞こえてきていた。
その一方で、城内で戦わないようにするためだろう、唯一の出口の前にはカルナが立ちはだかっている。

唯斗とアーサーは隠れていた茂みから出て砦に向かっていく。
当然気づいていたカルナは、ゆっくりと振り返った。


「来たか。では侵入者はジェロニモだな」

「さあな、アメリカに恨みがあるヤツなんざ掃いて捨てるほどいる」

「…なるほど。それは道理だ。悪いが、俺もここを任されている以上は脱出を許すわけにはいかない」


これは時間稼ぎのための戦い。喋って長引かせられるならそれが望ましい。アーサーはすでにエクスカリバーを構えている。


「……カルナ。機械化兵のことも、戦場で過酷な目に遭う人々のことも知ってるだろ。それなのに、なぜあなたような英霊が人権を軽んじるエジソン側についてるんだ」

「助けを乞われた。俺はそれに応じた。それだけだ」

「施しの英雄だからか、なるほどな。理解はできる。でも…ただ、素直に残念だし、正直悲しい。あんたがそちらに回っていることが」

「……失望させたのならすまない。だが俺も、少しでも救いのある結末になるよう努めるつもりだ」


どうやらエジソンに協力を求められ応じたようで、カルナにとってはそれだけで十分なのだろう。それが、施しの英雄たるゆえんだ。


「…いや、謝る必要はない。それが、あなたの在り方なんだろ、カルナ」

「っ…生前に経験し得なかったことを経験するのもまた、サーヴァント、というものか」


小さく呟いたカルナに首をかしげたが、カルナはぐっと魔力を籠める。話は終わりだ、という合図だろう。アーサーもすぐに剣を構える。


「戦闘となるからには全力で行かせてもらう。だが…そうだな、決してお前には怪我をさせないようにしよう」

「それを全力って言っていいのかよ」

「案ずるな、甘く見ているのではない…騎士王との一騎打ちだ、マスターであるお前に怪我をさせることは敵わんだろう」


アーサーは足を引いて腰を落とし、気を漲らせる。カルナも仏輪を模した黄金の槍を構えた。


「…アーサー、頼んだ」

「君は必ず僕が守る。藤丸君たちが出てきたら誘導と指示を」

「あぁ」


唯斗に頷いて返すと、アーサーは瞬時に地面を蹴って飛び出した。同時に、カルナも一瞬で姿を消してアーサーの前に姿を現す。
そして、轟音とともにアーサーの剣とカルナの槍が激突した。衝撃波が地面を走り、砦の表面に亀裂が走って窓が割れる。悲鳴もうっすら聞こえた。
すぐに、二人の戦いは目で追えなくなった。土煙が徐々に立ち上っていく中で、光の瞬きだけが二人の衝突を物語る。


「唯斗!」

「立香!こっちだ!走れ!」


そこへ、出口から立香が出てきた。ジェロニモに率いられ、マシュとナイチンゲールも続く。
すぐに彼らが走り出し、唯斗は内心でアーサーに呼びかける。


(撤退する、10秒後に合流してくれ)

(了、解っ…!)


余裕のなさそうなアーサーは珍しい。唯斗は足に強化をかけて地面を蹴ると、瞬時に砦を離れて立香たちに合流する。
ぴったり10秒後、背後からの爆音が止んで、そのあとすぐにアーサーも合流した。さっと目を走らせるが、怪我はなさそうだ。

こうして、立香たちの脱出は無事に成功し、一同はそのまま南へと向かうことになった。
目指すは現代のニューメキシコ州、メキシコ国境のデミングだそうだ。リバートンからデンバーまで車でも5時間かかる距離があったが、デンバーからデミングまでは車で見積もっても10時間はかかる距離だ。
リバートンから、立香たちは機械化兵の荷車に乗せられ、唯斗はアーサーに抱えられていたが、デンバーからは徒歩では厳しい。立香も自分が歩くだけなら強化くらいはかけられるようになったが、それでも相当な距離となれば疲労する。
しかしジェロニモが馬車を用意してくれていたため、その荷台に唯斗と立香、マシュ、ナイチンゲールが乗り、ジェロニモとアーサーは警戒を兼ねて御者台に同乗することになった。


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