特異点F: 炎上汚染都市冬木−12


だがそれだけではない。このまま本当にカルデアスに触れさせられるのだというのなら、あの次元が異なる高密度の情報体、理論上はブラックホールと同じ物体によって消滅させられる。それはただの死ではない。死という情報として残り続け、永遠にそれを知覚し続けるということだ。


「なんとか…なんとかできないのか?!」


立香は唯斗の腕を掴む。唯斗も話しながら考えていた。目まぐるしく回転させた脳の回答は、詰みだった。


「レフを一瞬で殺すしかない。俺の結界じゃ空間の切れ目に勝てないから。でも、あれは人じゃない。たとえ人でも、聖杯の前に俺たちは…」

「じゃあ何もしないのか!?」

「いや…いや、助けて、誰か助けて!わた、私、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない…!誰も、私を認めてくれていないじゃない…!」


そんな中でもオルガマリーの悲痛な声が聞こえてくる。立香は一瞬そちらを見て泣きそうに顔をゆがめてから、再度こちらを見た。


「無理やりマシュに戦わせたらマシュも同じことになりかねない。他に方法はないのかな、唯斗、本当に…どうしようもないのか…?」

「誰も私を評価してくれなかった…みんな私を嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいや…!だってまだ何もしてない!」


立香に体をゆすられる。しかしどう考えても、今からでは何もできない。レフにここで勝つことはできないし、見た目よりも冷静な立香はマシュを戦わせても二の舞になると理解している。サーヴァントがいない今、非力な人間にできることなどない。立香が唯斗に期待しているのは、まさに普通の一般人が魔法使いを前に縋るようなものなのだろう。


唯斗が動けないのは、それだけではなかった。オルガマリーの言葉が、唯斗の心にダイレクトに突き刺さるのだ。ずっと一人で、唯一の肉親である父には存在を認められず道具として使われ、魔術協会も、フランスの親戚も、誰も唯斗の味方にはならなかった。


「生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに!」


その叫びは、唯斗にも、よく理解(わか)ることだった。突き刺さる言葉の数々に、唯斗の口は動かない。言葉が、出てこない。
こんなときに声をかけられるほど、唯斗は人と話したことがなかったのだ。

そしてオルガマリーは、誰にもどうもできないまま、時空の切れ目からカルデアスに吸い込まれていった。眩い光とともに太陽のような地球の表面に、分解されて消えていった。

ただ、見ていることしかできなかった。


声が聞こえなくなり、立香は唯斗から離れると、おもむろにレフに向かって一歩踏み出した。その背中からは強烈な怒りが迸っている。


「よくも…!」

「ダメです先輩!あの男に近付けば、先輩も同じように殺されます!」

「ほう、さすがはデミ・サーヴァント。私が根本的に違う生き物だと感じ取っているな」


それを慌ててマシュが止めた。レフはそんな立香を見てニヤリとする。


「改めて自己紹介しよう。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。聞いているなドクター・ロマニ?供に魔道を研究した学友として、最後の忠告をしてやろう。カルデアは用済みになった。おまえたち人類は、この時点で滅んでいる」

『レフ教授…いや、レフ・ライノール。それはどういう意味ですか。2016年が見えないことに関係があると?』

「関係ではない。もう終わってしまったという事実だ」


レフは改めて名乗ったものの、その正体は明かさなかった。やはり人類ではないようで、だとするとここではサーヴァントのような英霊が想定される。しかし英霊にはここまでできない。そもそもこんな英霊は聞いたことがなかった。
サーヴァントは一部にはマスターから離れて行動できるスキルがある。しかしレフは時空すら超えている。そこまでマスターと分断することはありえない。人でもサーヴァントでもないなら、その正体はまったく不明だった。
それに人類は滅んだとまでレフはのたまった。2015年で人類史は終わったと。先ほどオルガマリーと話したことが反芻される。


「この特異点のように、人類史に歴史の修正力を上回るインパクトを与える歴史の改ざんを行って、その先の人類史をなかったことにしたわけだな」

「そういうことだが、少し惜しいな。まぁいい。いずれカルデアも、今はカルデアスの磁場によって時間の進み方が狂い干渉を受けていないが、カルデア内の時間が2016年になった時点で消失する運命だ」


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