北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−14
一晩が明けて、さらに翌日の昼間となった。
仮眠から目を覚ますと、メキシコ国境地帯のステップ気候特有の鋭い日差しと乾燥が肌で感じられた。荷台の幌の破れ目から漏れる光は、黒い画用紙を当てたらすぐに火がつきそうだ。
仮眠と言っても、唯斗は眠るのが得意ではないため、眠りに就くことができず、結局意識を失うようにして深夜にようやく眠ったように思える。徹夜明けのようなだるい目元には、この日差しは眩しすぎる。
「着いたぞ」
馬車が止まり、ジェロニモが荷台後方から声をかけてくる。立香とともに外に降り立つと、足下から埃が舞う。
馬車の外の厳しい日差しの下に出て周りを見渡せば、まるで典型的な西部劇のような街が広がっていた。
「ケルトの襲撃で住民はもう逃げ出している。ここにいるのは、私が引き入れた同胞たちだけだ」
そう言ったジェロニモのところに、見張りの兵士が駆け寄ってくる。普通の人間だ。白人が仲間であるというだけで不思議に感じられた。
「眠れたかい?」
「いや、ほぼ気絶しただけだ」
「次からは僕が添い寝しよう」
「それは最終手段な」
とはいえ選択肢から排除しないあたり、このまま睡眠不足になる可能性が自分でも高いと自覚している。
全員が荷台から降りて、ジェロニモについていく。歩きながら、ジェロニモは兵士に尋ねた。
「彼は無事か」
「ああ。かろうじて呼吸はある」
「サーヴァントがいるのですか?」
「立香たちには話してなかったのか」
疑問符を浮かべたマシュと、それに思い当たった唯斗、双方にジェロニモは頷いた。
「君たちに協力したのは、彼の治療をしてもらいたかったからだ。唯斗にはすでにこの話をしている」
「ラーマ、だったな」
『ラーマーヤナのラーマかい!?そんな彼が瀕死だなんて…』
「ついでに相手はクー・フーリンだそうだ」
『!!そうか、いるよな、そりゃそうだよな!』
「恐らくオルタ化してるんだろ。多分、立香のサーヴァントとしては召喚できるはずだ」
一通り情報共有を済ませたところで、一同は立ち止まる。兵士たちが家屋の一つに入っていき、ナイチンゲールはそちらを見据えた。
「私の出番というわけですね。いえ、出番であろうとなかろうと、治療が必要な患者がいるなら治療します」
「ああ、頼む。君の治療があればなんとかなるかもしれない」
兵士たちが担架に乗せて運んできたのは、見た目には少年のサーヴァントだった。黄色から深紅にグラデーションする鮮烈な髪をなびかせる美しい見た目の少年だが、その胸元は抉れていた。
『心臓が半ばえぐり出されているじゃないか!?よく生きていられるな彼!』
「まあ…頑丈なのが…取り柄だからな…ぐっ…!」
「……こんな傷は初めて見ました。しかし安心しなさい少年。地獄に落ちても引きずり出して見せます」
ラーマが担架に乗せられたまま地面に置かれナイチンゲールによる荒療治が始まると、ラーマは呻きながらも明瞭に喋った。その胸元はえぐり出されているにも関わらずだ。
「唯斗、ごめん、ラーマーヤナって…?俺、まだインド神話は勉強できてないんだ」
すると、立香が唯斗の隣でそっと尋ねてきた。カルデアにはギリシア系やイギリス、フランスの英霊が集中しているため、ギリシア神話やシャルルマーニュ十二勇士、アーサー王伝説などで手一杯なのだろう。
「インド二大叙事詩といえばラーマーヤナとマハーバーラタだ。どちらも時代的には紀元前5、6世紀頃の北インド、十六大国という国々が群雄割拠していた時代を舞台にしてる。ちょうど、現代インドにもあるカースト制度が確立された頃でもあるな」