北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−15
カーストとは英語ないしポルトガル語の言葉であり、実際にはヴァルナという階級制度、そしてジャーティという職業や出自の集団をそれぞれ縦と横の社会階級制度として総称されるものだ。
もともとガンジス川沿いに暮らしていたドラヴィダ系やタミル系の人々を支配する形でアーリヤ系が侵入し、肌が白いアーリヤ系が上に立つという階級が、「肌の色」を意味するヴァルナという階級制度に昇華された。
上から順にバラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャ、シュードラといい、その下にはアウトカースト(アンタッチャブル)という不可触民がいる。
現代インドでは、カーストに基づく差別行為が禁止されているだけで、カーストそのものは厳然と残っている。都市部では極めて薄れているが、インドは人口の半分以上が農民という農村社会、人口比で言えばほとんどがカーストの中に生き続けていると言っても差し支えない。
「十六大国は曖昧な概念で、そもそも記録にも乏しいけど、実在性として確実でかつ有名なのはマガダ国とコーサラ国。マガダ国はのちに全インドを支配するマウリヤ朝となる国で、コーサラ国は釈迦族が暮らして仏教が生まれた地域だ。ラーマはこのコーサラ国の王子で、妻であるシータを探しに遙々スリランカまで遠征する。その戦いの物語がラーマーヤナだ」
「へぇ〜。シータってあれだね、飛行石持ってそう」
「そのモデルで間違いない。カンボジアの有名なアンコールワットの回廊壁画や、インドネシアの影絵文化、他にも東南アジア全体で劇や絵本で語られる超有名な物語でもあるし、もちろん現代インドでも有名だ。ラーマーヤナの方がマハーバーラタより現代世界での影響度は高くて、概ね16億人に受容されていると言っていい」
アンコールワットの回廊の壁画には、ラーマがシータを探しに羅刹の王と対峙する場面が描かれている。インドネシアのジャワ島では、影絵文化や民族舞踊の最も有名な題目となっている。
「ふっ、余の高名さ、称えるがいい…うっ、いたたたた」
一方、唯斗が説明している間にナイチンゲールは治療を続けていたが、一向にラーマが回復する気配はない。
苦しむラーマの胸元に手を当てて治癒を行っていたナイチンゲールは、唇を噛みしめる。
「悔しい、悔しい悔しい悔しい…!追いかける死の速度を鈍くはできても、止めることはできないの…!?」
「ナイチンゲール、ちょっと俺も見ていいか。多分、魔術的な怪我のはずだ」
ナイチンゲールは素直に手をどかす。助けるためなら手段を選ばないのだ。
唯斗はひどい傷を検分する。魔力は禍々しい、そして着実に心臓の細胞を侵食していた。これは術式というようなものではない。
「……ラーマ、戦った相手はクー・フーリンだったな。その槍を、ここに受けたってことだよな」
「ああ…っ、ぐ、その通りだ…」
「分かった。ナイチンゲール、邪魔したな」
「何か分かったのですか」
ナイチンゲールはすぐに治癒を再開する。立香たちに見下ろされながら、ナイチンゲールによって浸食が止まる心臓の怪我を見つめた。
「立香、ランサーの宝具、
刺し穿つ死棘の槍がどういうもんかは、分かってるよな」
「うん、確か、心臓を穿つっていう結果が先にあってから宝具が展開されるんだよね」
「そうだ。つまり、因果を逆転させるとんでもない宝具ってことになる。ぶっ飛んだ話の多いケルト神話にあってもめちゃくちゃなもんだ。こういう宝具のことを概念宝具っていう」
「概念…」
「ゲイ・ボルクは、因果を操作してまで死をもたらすという概念そのものにこそ宝具としての価値がある。概念宝具は、展開されて攻撃が当たった時点で、その概念から逃れる方法は存在しない。ディルムッドの宝具も同じだな、攻撃を受けたら治らないってやつ」
「じゃあ、ラーマは治らないってこと…!?」
「治らないどころか、死ぬことが本来自然なんだ。なのに死んでいないってのは、さっき言った通り、ラーマの格がそれだけ高いからだ」