北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムI−16
心臓を穿つという結果が先に発生する、因果の反転。それそのものが宝具たるゲイ・ボルクは、その概念が発生した時点で逃れる術はない。ラーマの生命力の高さが、結果の発生を遅らせているのだ。
しかしすでに、ラーマには死ぬという結果が確定している。
ナイチンゲールは、損壊が止まらない心臓を見て、ぐっと拳を握りしめてから、唯斗を見上げた。
「ミスター雨宮、そしてあなたたちに窺いたいことがあります。治療法を、彼を救う方法を教えてください。私では、彼を治すことはできない。でも、私は諦めたくはないし、諦めるつもりもない」
「当然だ、ナイチンゲール相手に諦めろなんて言えない」
唯斗は頷くと、通信にロマニの映像を映す。モニター越しにロマニと目を合わせて、ラーマの今後について腰を据えて話すことにした。
「ロマニ、これはもう、クー・フーリンを倒すかゲイ・ボルクを壊すかしかない。でもそれはラスボスの討伐に等しい、現実的じゃない。因果が一度逆転した今、ラーマが死ぬことが自然な状態だから、これを再逆転させるってのは、因果操作に他ならない。それは可能なのか?」
『うん、ほとんど僕も同じ考えだ。その上で質問に答えよう。答えはYesだ。ここは特異点、そもそも因果がぐらついている状態だ。ラーマ君の存在力を強めれば因果が解消されるか、それに近い状態になるはずだ』
「生きていることが不自然、っていう状態を逆転させるだけ、生きていて当然、っていう存在力にするわけだな。生前のラーマを知っているサーヴァントがいれば、可能ってとこか」
唯斗とロマニの会話を聞いていたラーマは一瞬だけ思案してから口を開く。
「ひとり、いる。この世界に、召喚されたサーヴァントが。もう一人、余と同じ時代から召喚されし者がいる。それは我が妻、シータだ。余も見たわけではないが、必ず、この世界のどこかに囚われているはずだ。余はそれを糾し、彼女の居場所を知るためにクー・フーリンと刃を交えたのだ」
「じゃあ、ナイチンゲールが治療を継続しながらシータを探すのが当座の目標になるけど…ジェロニモ、平行して東西両陣営とやり合う戦力はあるのか」
ナイチンゲールは必ずラーマの治療を第一とするように動くはずだし、カルナやクー・フーリンなどの強敵にはラーマの力が不可欠だ。
一方で、エジソンたち合衆国と、ケルト軍との戦いも同時進行しなければならない。
「あの数に正面から立ち向かうには、とても足りていない」
「だろうな。ケルト兵は恐らく聖杯を原動力に魔術で増産され続けるし、機械化兵はエジソンが生産し続ける。ただ、機械化兵は上限が大陸の人類の数なのに対してケルト軍は恐らく無限。いずれ合衆国は食われるし、そのときが特異点の終わりだ」
『考察は後方の僕の役目なんだけど、唯斗君が本格的にコミットすると本当に心強いな…唯斗君の言うとおり、こちらに残された手段は一つ。敵の首魁を直接討ち取る』
「暗殺だな」
数に不利があるときの常套手段だ。特に上限のないケルト兵を相手にするには、もうこれしか手はないだろう。
「…よくぞ言ってくれた、二人とも。その通りだ。少しでも暗殺の成功率を上げるためにも、各地に散ったサーヴァントたちと合流して、ケルトとエジソンに対抗する」
今後の方針は決まった。強大な敵である合衆国とケルト軍に対抗しながら暗殺を企てるべく、ラーマをナイチンゲールが治療しながらサーヴァントたちと合流していき、シータに関する情報を集める。ついでに霊脈の強いところがあればターミナルポイントを設置する。
果てしないが、目の前にあることを一つずつ解決していくしかない。