北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−4
食事が必要な唯斗と立香、マシュがカルデアの物資によって食事を終えると、明日以降の作戦会議の時間となった。
カルデアと通信を繋ぎ、焚火を囲んで全員で臨む。
『じゃあ早速始めようか。目下、急を要する目標はシータを捜索しラーマを回復させること。同時に、刻一刻と悪化する戦況を速やかに是正するため、ケルトのトップを暗殺すること。この二つに絞られる』
「私はラーマ君を治療する必要があるので離れることはできません」
すかさずナイチンゲールが答えた。今も、ラーマの胸元に手を当てて治療を続けている。ラーマはまだ元気そうに振舞っているが、当然、あと数日も持たない。
「フェルグスとの戦闘で、シータ王女がアルカトラズ島に幽閉されていることが明らかになりました。現在のサンフランシスコにあたる地域の沖合に浮かぶ島です」
マシュがアレクサンドリアでの戦闘でフェルグスから聞いた内容を確認する。
ここからサンフランシスコまで、車でも30時間かかる。大陸を3分の2ほど横断することになるのだ。
ここのところ馬車で強行軍が続いているが、これまでの比ではない。
「ケルトの本拠地はワシントンで間違いない。首都の占領は相手の戦う意欲を削ぐからな、十中八九、首都にいるだろう」
ジェロニモが言う通り、恐らく敵は旧合衆国の首都に陣取っている。アレクサンドリアからワシントンDCまでも、車だと18時間かかる距離だ。東西どちらも相当な時間がかかる。
唯斗は召喚サークルから投影されるホログラムのような映像に映し出された大陸を見上げて口を開いた。
「かなり時間がかかるから、ラーマの方に行くメンバーは身軽な方がいい。そんで、多分ワシントンの暗殺組の方が早く到達するはずだ」
『僕も同じ概算をしている。比較的街道が整備されている東部であれば、西部よりは進むのが速くなるはずだ。その分、敵も多くなるけれど』
「その敵戦力が問題だ。俺の懸念としては…」
唯斗はちらりとラーマを見遣る。ラーマは仰向けになって汗をかきながらも唯斗の言葉を待っていた。
「…ラーマーヤナからラーマとシータ。マハーバーラタからカルナ。ヒンドゥー教に傾倒したブラヴァツキー。ここまで揃ってんなら、正直、マハーバーラタからもう一人召喚されてる可能性がある。カルナに対応するなら…アルジュナ」
『ッ!アルジュナか…確かに不自然じゃない、もしもアルジュナが敵にいるなら…』
インドの大英雄の名前に、全員が息を飲む。立香だけが依然としてつかめていなさそうだ。立香が会敵する可能性も鑑みて、唯斗は軽くマハーバーラタの方も説明することにした。
「立香、マハーバーラタもラーマーヤナとほぼ同じ時代、十六大国時代の古典インドが舞台だ。ラーマーヤナが北東部のコーサラ国を舞台としているのに対して、マハーバーラタは北西部のクル国が舞台になる」
クル国の王パーンドゥは、呪いによって子供を成すことができなかったため、最初の妻クンティーと次の妻マードリーが代わりに神と交わり、クンティーと3人の神の間に生まれた王子3人と、マードリーが2人の神の間に設けた2人の計5人が子供となった。
この5人の子を、パーンドゥの子を意味してパーンダヴァ兄弟という。
このうち、クンティーと雷の神インドラ(帝釈天)との間に生まれた王子がアルジュナで、5人の中でも最も秀でた才能に恵まれていた。
父王パーンドゥが亡くなると、幼いアルジュナたちに代わって、パーンドゥの異母兄であるドゥリタラーシュトラに王位が移る。しかし兄王は老齢のため、すぐにその次の王が検討されることになり、パーンダヴァ兄弟か、ドゥリタラーシュトラの100人息子たちカウラヴァ兄弟か、どちらが王位を継承するかで揉めることになり、これは北西インド全土を巻き込む大戦争・クルクシェートラの戦いに至った。
「先王の息子であるパーンダヴァ兄弟、現王の息子であるカウラヴァ兄弟、どちらが王位につくかで始まった大戦争を描いたのがマハーバーラタだ。カルナは、クンティーがパーンダヴァ兄弟を生む前に秘密裏に太陽神スーリヤとの間でなしていた息子で、アルジュナの異父兄にあたる」
「じゃあ、アルジュナと同じパーンダヴァ兄弟側についたの?」
「いや、カルナは婚姻前に母となることを恥じたクンティーに捨てられて、市井の御者の家庭に拾われた。この身分の違いによって、アルジュナと同じ師匠のもとで修業していても差別され、決闘でも差別され、どこにいてもバラモン階級が優遇される中でパーンダヴァ兄弟から離れてく。そうして、アルジュナたちの対抗馬として目を付けたカウラヴァ兄弟に引き入れられて、カウラヴァ兄弟側についた」