北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−5


母に捨てられ、身分差別による辱しめを受け、実力すら評価されない中で、カルナはカウラヴァ兄弟側についた。
マハーバーラタがバラモン階級の物語であるのに対して、元から階級意識が薄かった北東部の物語であるラーマーヤナはクシャトリヤ階級に焦点が当てられている。


「アルジュナの従兄弟であり、ヒンドゥー教の最高神の一人であるヴィシュヌ神の化身でもあったクリシュナは、親族との戦いを躊躇うアルジュナを励ます。宇宙の真理ブラフマンと自身は接続されているという古典インドの哲学を説いたものでもあるその会話は『バカヴァット・ギーター』と言って、ヒンドゥー教の聖典でもある。そうしてアルジュナは戦いを決意して、カルナと対峙する。カルナが異父兄とは知らずに」

「ええ……なんか、めっちゃ悲劇的だね…」

「そうだな。カルナは悲劇の英雄とも呼ばれる、不幸な出自と人生、巡り合わせの悪さを持っているけど、でも、どこまでも善良だった。『施しの英雄』と呼ばれるように、カルナは乞われた者に絶対に与える英雄だった。エジソンに協力してるのも、エジソンに助けを乞われたからだ」


不幸なことばかりのカルナであるが、一方でそのそこ抜けの善性は、この物語が善と悪の単純な二項対立ではない複雑な対立模様を描く重要なポイントでもあった。


「それに対してアルジュナは『授かりの英雄』、カルナと違って、雷神インドラや最高神ヴィシュヌの助けを得て、何もかもに恵まれてる。今もインドの男性の名前として最も多い名前のひとつだ。優れた弓矢の武勇を考えれば、サーヴァントとしてはアーチャーのクラスのはず」

『しかし、アルジュナがケルト側につくのかな?カルナほどじゃなくても、アルジュナだってその善性はヴィシュヌ神の化身であるクリシュナに認められてるほどだ』

「そこなんだよな、俺も、アルジュナが召喚されていたとして、ケルトやエジソン側につくとは思えない。いたとしても、はぐれとして大陸をうろついてるか、そもそも召喚されていないかのどっちかだと思ってる」


長くなってしまったが、重要なのはアルジュナがいるかもしれないということで、最悪の場合はケルト側について敵対するかもしれないということだ。

その善性を考えれば、確率としては極めて低いと考えている。


「ギリシアやケルトの神話とは違う。インド神話はより哲学的だ。何より、人間の在り方を説く聖典としての性質を強くしていて、キリスト教やイスラームに継承されなかった欧州の神話と違って現役の信仰対象だ。とてもアルジュナがケルト側にいるとは思えないけど…その可能性を考慮して、暗殺には俺とアーサーを含めたメンバーがいいと思ってる」

『それには同意するよ。立香君とマシュは、ナイチンゲールとアルカトラズに行こう。他のサーヴァントたちはどうする?』


ロマニや立香も異論はないようで、あとは特異点に召喚されたサーヴァントたちの割り振りの段階となる。ナイチンゲールとラーマは立香についていくとして、他のメンバーだ。


「ワシントンへの道案内は私が適任だろう」

「暗殺っていうんなら、僕とグリーンもワシントンかな」


この大陸の現状をよく知るジェロニモ、暗殺という作戦に適した力を持ったビリーとロビンフッドはワシントンに唯斗と向かうことになる。

残る二人のうち、エリザベートは真っ先にアルカトラズを選んだ。


「あたしは小鹿と行くわ。あたしの歌声をケルトに聴かせるのはもったいないもの」


道理と言えば道理だ。エリザベートのあの歌声は間違っても暗殺には向かない。それならネロもそちらだろうか、と思っていると、ネロは意を決したように顔を上げた。


「余はワシントンの方へ行こう」

「…ちょっと、あたしとの勝負はどうするのよ」

「おぬしとの勝負は、アメリカが平定され観客が集められるようになるときまでお預けだ。何より、そこのラーマなる王子と一人称が被るではないか!」

「そこなんだ…」


ネロの言葉に立香が一気に脱力した。何か理由があるのかと思えば、ラーマもネロも「余」という一人称であることを気にしてのことだったらしい。
エリザベートも納得していて、もう彼女たちがそれでいいならいい、という空気になった。

こうして、唯斗とアーサーはジェロニモ、ロビンフッド、ビリー、ネロとともにワシントンでの暗殺任務に向かい、立香とマシュはナイチンゲール、ラーマ、エリザベートとともにアルカトラズ島へシータを探しに行くことになった。

クー・フーリンとアルジュナを相手取って戦うには、正直ギリギリだ。しかしアルジュナがいない可能性の方が高いため、なんとかなるだろうと踏んでいる。それはアーサーとロマニも同じ意見のようだった。もしもなんとかならなかったら、アキレウスによって離脱するが、定員を考えれば、ここにいるサーヴァントたちを犠牲にすることになりかねない。それは何としても避けたかった。


***
注)ワシントンは1790年から建設が始まるため、1783年当時の首都機能はニューヨークとフィラデルフィアにありました。憲法に則って首都をどこにするかすら決まっていない段階であるはずなのですが、都合上、原作に揃えています。


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