北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−6
翌朝、日の出とともに一同は東西に分かれて移動を開始することになった。
特異点修復の条件は、恐らくケルトの親玉であろうクー・フーリンを倒してケルト軍のトップを叩くこと、そして回復したラーマを含めたメンバーで、残されたケルトの軍勢を駆逐すること。
一方こちらの敗北条件は合衆国の崩壊だけであるため、唯斗たちが東部を襲撃する分には特段そこは問題ない。
しかし、暗殺が成功する可能性は正直五分五分だ。どこか最後の別れを意識しているような形になるのも無理はなく、どことなく、それぞれの口ぶりは最後を意識させていた。
最後になってたまるか、と思っていたのは唯斗だけではなかったらしく、立香と唯斗は簡単な言葉だけで分かれた。
「ディルムッド倒したら報告してくれ」「分かった」という業務連絡で済ませたことに、ジェロニモたちはそれでいいのか、という目を向けてはいたが、何も言わなかった。二人の関係性を尊重してくれているのだろう。もちろん、通信でいつでも会話できるということも大きいのだが。
そうしてアレクサンドリアの森を出て、唯斗とアーサー、ジェロニモ、ロビンフッド、ビリー、ネロの暗殺部隊は東へと進み始める。
ここからワシントンまで車だと18時間かかる距離だが、今はラーマもいないため、全員が身軽だ。そこで、それぞれのサーヴァントが唯斗を背負って走り、他は霊体化するという方法をとった。立香たちも、なるべく霊体化やサーヴァントによる移動に切り替えている。
まずは現在のアラバマ州バーミンガムにあたる場所までアーサーに背負われていくことになったが、さすがというべきか、アーサーは唯斗を背負ったまま全行程の3分の2以上にあたるバージニア州ロアノークまで到達してみせた。
ここまで二日ほど、本来徒歩なら2週間かかる距離をそれだけの僅かな時間で踏破したわけだ。
そこからワシントンまで今度はジェロニモに背負われて移動し、ポトマック川を挟んで対岸にワシントン市街地となるあたりに到着したのは、アレクサンドリアを出て三日目の昼のことだった。
奇しくも同名の街アレクサンドリア付近の林で身を隠し、ロビンフッドが「顔のない王」で市街地に潜り込んで様子を窺う。帰ってきたロビンフッドいわく、サーヴァント反応は2騎、そして街では近々パレードがあるとのことだった。
「パレードか…よいな……余もパレードをしたくなってきた」
「敵の首魁もいるのか分かればな」
羨むネロの横でジェロニモが言うと、ネロは自信たっぷりに頷いた。
「よいか、パレードとはリーダーこそ目立たなければならぬ。必ず、ケルトの首魁はパレードの目立つ場所にいるだろう。故に、パレードとは暗殺するに格好のタイミングと言える」
「…なるほど。ではパレードに乗じて襲撃するのがいいか」
暗殺はするのもされるのも得意だと本人が言っていた通り、ネロは状況から確実にクー・フーリンたちが現れると踏んでいる。
唯斗は全員を見渡して、今一度確認のために口を開く。
「想定される敵の主戦力はクー・フーリン。他の英霊が現れるとして、可能性があるのはディルムッドとフィン、アルジュナ。2騎の片方が女王とかいう親玉であるかどうかは分からないけど、正直誰か来てもきついモンはきつい。クラス相性もあるけど、基本的には手ごわい方をアーサーに相手取ってもらう」
「ケルト兵は槍兵が基本だ、多くの場合セイバーである僕かネロ帝が有利だろう」
想定される4騎のうち3騎がランサーだ。アーサーとネロが主軸となる。
「最悪のパターンは、クー・フーリンとアルジュナの2騎に加えて、女王という人物と会敵すること。聖杯を持っているのが女王という人物だとすれば、サーヴァントであろうとなかろうと強力なフォローが可能なはずだ」
唯斗が言うと、ジェロニモは頷いてロビンフッドとビリーを見遣る。
「アルジュナに対して、こちらはランサークラスを揃えられないが、そもそもアルジュナレベルともなればクラス相性も何もない。私とロビンフッド、ビリー、唯斗とそのサーヴァントで引き受ければ持ちこたえられるだろう」
基準となるカルデアのランサー・クー・フーリンを考えれば、クー・フーリンの方はアーサー一人、場合によってはネロも含めてなんとかなる。アルジュナに対しても3騎と唯斗で戦えば乗り切れるだろう。
そもそもアルジュナが現れる可能性は低いというのがこちらの見立てだ。カルデアからサーヴァントを呼び出せることもあって、ごり押していける、その作戦に対して誰も異論はなかった。