北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−7


いよいよ、パレードが始まった。
集まったケルトの兵士たちが市街地の目抜き通りに集まり、その群衆をかき分けるように大仰な馬車が進んでいく。そこに乗っているのは、ティアラをつけ際どい格好をした女性サーヴァントだった。手に持った短鞭は乗馬用のものだが、なんだかいかがわしいものに見えてきた。
それは、このサーヴァントの生前の伝説を鑑みればまったく不思議なことではない。


「みんな〜!今日はメイヴのために集まってくれてありがとう!」


アイルランド北部、現在のイギリス領北アイルランドにあたる領域を占めていたベルファストを中心とする地域をコノートというが、この地域がコノート王国という国家だった古代ケルト文明において女王だったとされるのがメイヴだ。


「…まぁ、アルスター物語群のサーヴァントが集まってたこと考えると当然か」


そう呟いてから、ロビンフッドの宝具によって全員の姿を隠してパレードの群衆に突っ込む。一気に近づいて、そして一気に距離を詰める。

アルスター物語群とは、ケルト神話における大きな4つの物語群の一つにして最も有名なものだ。
基本的には英雄クー・フーリンを主人公とする一連の物語であるが、大きな軸として北東のコノート王国と西部のアルスター王国との対立も描かれる。
アルスター王国の王でもあったフェルグスは、血縁だとされるクー・フーリンの養父でもあったが、フェルグスが譲位して即位した王との関係性が悪化するとコノート王国に亡命し、メイヴの最初の相手になる。
その後、コノート王国において女王メイヴと夫にしてライバルの王アリルが財産の多さで競争を始め、その中でメイヴは強い牛を求めてクーリーの街を襲い、そこからコノートとアルスターとの全面衝突に発展、若き英雄クー・フーリンがほぼ単身でコノート王国を打ち破る。

ディルムッドとフィンが登場するのは、アルスター物語群から300年後のアイルランドが舞台となっているとされるフィン物語群である。

メイヴとクー・フーリンは敵対関係にあったはずだが、この特異点では共闘しているということだろうか。
なんであれここは特異点、正史と異なるからこそ特異点なのだ。そこを考えても意味がない。
ロビンフッドのマントから全員出ると、ネロがメイヴの前に立ちはだかる。


「女王メイヴよ!なかなかに愛らしい様子だが、生憎と貴様の天下はこれにて終わりだ!春の日差し、花の乱舞!皐月の風は頬を撫で、祝福はステラの彼方まで!開け、ヌプティアエ・ドムス・アウレアよ!」


そして堂々と述べると、ネロの宝具が発動する。途端に、大きな広場はまるごと宝具の転換領域に包まれる。
そこは、黄金と白亜、薔薇の輝く豪華絢爛なホール。この空間は固有結界とまではいかないものの、ネロの支配下にある空間だ。敵対する者の力を削る効果がある。


「コノートの女王メイヴ!悪いが、その首級を頂戴する!」


ジェロニモは身構え、ビリーも拳銃を構える。
ネロとアーサーは剣を構え、ロビンフッドは右腕に出現させたボウガンを向けた。

メイヴのクラスは恐らくライダー、相性を考えて唯斗はサンソンを召喚する。


「サンソン、」

「はい、マスター。相手は……なるほど。コノートの女王メイヴですか」


唯斗のそばに控えるように現れたサンソンはすぐに状況を把握すると、右手に黒い大剣を出現させて態勢を低くする。すぐに動けるように身構えているのだ。
メイヴは多勢に無勢である状況を見て、しかしさほど困ったようにはしなかった。


「大ピンチ!大ピンチよ私!だから…助けて、王様!」


メイヴは大してピンチだとは思っていなさそうな声で「王様」とやらを呼んだ。ロビンフッドが感知していた2騎のサーヴァントのうちもう片方が来る。
すぐに、全員がサーヴァントの接近を感じ取った。直後、ネロを弾き飛ばすように巨体が姿を現す。
半裸にフード付きの肩衣を纏い、槍を携えてこちらを睥睨する男。鋭い紅の瞳は、全員を見渡しながらなんの感情も抱いていなかった。


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