北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−10
しかし、俊足のアキレウスの速度は当然だが魔力消費が激しい。魔術回路が発達した唯斗であっても、すでにアキレウスによる離脱で相当削られていた。
これではあと10分と持たない。しかし、向こうも直に追いかけてくるだろう。みすみす逃すとも思えない。
そもそも、カルデアからのサーヴァント召喚は戦闘中のみで、常時できることではないのだ。
「アキレウス!そろそろ降りてくれ!」
「もういいのか!」
「ずっと宝具を解放させられるほど俺もカルデアもエネルギーがないし、人間である俺に配慮した速度じゃ逃げ切れない。どうせ迎え撃つなら、力を温存しておくべきだ」
「分かった、異論はねぇ!降りるぞ!」
いずれにせよ、追いかけてくるアルジュナやオルタを迎撃する必要があるのだ。それならば、早めに体制を整えるべきである。
アキレウスは眼下の草原に降り立つ。宝具の展開をやめると、それだけで唯斗は息をつけた。宝具を展開している間、ずっと魔力を持って行かれ続けていたのだ。
座標を確かめると、そこはオハイオ州東部の草原で、改めてアキレウスの速さを思い知る。
「ロマニ、聞こえるか…だめか、アキレウスの移動が速すぎて補足が追いついてない」
「大丈夫そうか?」
「あぁ…それよりも、だ」
唯斗は東へと視線を向ける。
草原と言っても、森や林が点在するため見晴らしはあまり良くない。高い青空は嫌みなほど綺麗だが、光の輪が禍々しく浮かんでいた。あれがソロモンの宝具だと分かった第四特異点から時間が経っているが、オルタの禍々しさもまた、別格の恐ろしさを孕んだものだった。
「多分、オルタ、メイヴ、アルジュナの3騎で追いかけてくる。アーサーにはオルタを任せるとして、問題はアルジュナだな」
「俺とオタク、あんたのサーヴァントで太刀打ちできるんです?」
「基本はアキレウスに任せて、俺とロビンはひたすらロビンの宝具で西に移動する。オルタとアルジュナ、両方を倒すことはできないし、メイヴのフォローがある限り片方を倒すこともできない」
オルタの強さが最も想定外だった。
カルデアのランサーであれば、アーサーがあそこまで警戒することはなかっただろう。しかし、アーサーですら格が違うと言うほどだ、聖杯によって生み出されたオルタは、道理から外れた強さだということだ。
それに加えて、可能性は低いと見積もっていたアルジュナの存在。最悪パターンが想定外の出来事とともに実現されたのである。
「…正直、想定してた最悪のケースよりも状況は悪い。でも、そこはもうしょうがねぇ。アキレウス、アルジュナをメイヴから引き離して単騎にして交戦するようにしてくれ。アーサーはオルタとメイヴの2騎を相手にするように。アーサー相手ならオルタも手こずるから、メイヴはそっちにフォロー回るはずだ」
「了解したぜマスター。マハーバーラタの英雄と戦えるとは光栄だな」
「僕が彼らを相手取っている間、マスターとロビンフッド殿は撤退する形かな」
「距離を取るだけ、って言った方がいいかもな。いずれにせよ、メイヴを引き剥がせばアルジュナには勝機がある。そんで、アルジュナくらいは倒さないと逃げ切れない」
かなり厳しい戦いだが、アルジュナを倒すくらいのことをしておかなければ、恐らく逃げ切れないだろう。アキレウスだけで合衆国のテリトリーまで撤退できれば良かったが、そこまでカルデアの電力は持たない。
アキレウスはどこまで状況を理解しているかは分からないが、目の前の戦いに集中するだけでいいのは確かであるため、東を見つめながら集中力を高めていた。
アーサーも厳しい表情をしていて、エクスカリバーを握りしめる手は常に両手が添えられている。最大級の警戒が続いていた。
鍵になるのはアキレウスの使い方だ。第一目標は撤退。そのためにアルジュナを倒すなり戦闘不能にするなりしなければならないということである。
どうやってアキレウスを使うかが、唯斗の命運を左右するだろう。