北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−11
どうやらアルジュナが先行する形をとったらしい。
先に現れたアルジュナは、草原に霊体化を解いて降り立つと、こちらを静かに見据えた。まったく隙のない立ち姿に、アキレウスもアーサーも身構えて出方を窺う。
「ブリテンの騎士王にイリアスの英雄…人類最後のマスターは二人いると聞いていますが、あなたがその一人ですね」
「その通りだ、授かりの英雄アルジュナ。お前がそちらについて戦う理由は、合衆国にカルナがついてるからか」
カルナとライバル関係として描かれるアルジュナ。最高神ヴィシュヌの化身たるクリシュナに認められたその善性はケルト側につくようなものではなく、考えられる理由はそれしかなかった。
アルジュナは少しだけ表情を歪めてから、一瞬で元の仏頂面に戻り答える。
「ええ、その通りです。私はヤツを倒すこと以外、関心はない。ケルトがこの大陸を蹂躙することに加担するつもりはありません」
「止めることもしないってことだな。カルナがエジソンに助けを乞われたから合衆国についたことがカルナの在り方に直結していたように、カルナのライバルであるアルジュナがカルナを倒すこと…いや、あいつと正面から再び戦うことを何より重視しているってのは、それもアルジュナの在り方なんだろ。俺はそれを否定するつもりも、軽んじるつもりもない」
「……、」
英雄には英雄たる理由があり、在り方がある。それは彼ら自身の尊厳でもあった。
だからそれをおいそれと否定したくはなかったし、それによって敵対することになってもしょうがないと思っている。
「でも、人類の敵にアルジュナがついていることを、後世の10億人以上の人々が嘆くだろうし、俺もその一人だということも、忘れないでくれ」
インドの男性名として最も多い名前のひとつにもなっているアルジュナ。知性、武勇、誠実、そして神々に愛されたその人格を示す英雄の名に、インドの人々は我が子の愛される未来を願い、幸福を授かる人生を祈るのだ。
アルジュナは唯斗の言葉を聞いて、今度こそ表情を歪めた。きっとアルジュナ自身、葛藤を抱えているのだろう。しかしそれもまた、彼の在り方だった。
「……人間であるあなたを殺すことは決してしないと約束しましょう。しかし私も果たすべき役割があるのです」
「分かってる。アキレウス、任せたぞ」
「任せとけ。我が名はアキレウス、マハーバーラタの英雄よ、ここはトロイアでもクルクシェートラでもねぇが…戦場に不足はねぇな」
「どこであろうと、やるべきことをやるだけだ」
アキレウスは槍を構えると、一瞬にして距離を詰めた。アルジュナはなんとか弓で攻撃を防いだが、畳みかけるアキレウスの槍捌きに矢を装填する時間すらない。
しかしアルジュナは物理的な矢を必要としない。空中に飛び上がると、背後に青白く輝く魔力の光を漲らせ、そこから魔力でできた矢を放った。数本に分岐して屈折しながらアキレウスに迫るものは、矢というより光線だ。
「マスター、クー・フーリンの接近を確認した。先に行って迎え撃つ」
「頼んだ。ロビン、行こう」
「了解」
アーサーはオルタの接近を感知すると、すぐに地面を蹴ってその場を離れた。アルジュナをオルタから離してアキレウスと単騎の戦いに持ち込むことが重要だ。
その間に、唯斗とロビンフッドは「顔のない王」によって姿を隠して撤退を図る。ロビンフッドが唯斗を背負い、そのままマントを羽織って姿を隠すのだ。
マントに包まれながらロビンフッドの背中に負ぶわれ、背後から聞こえてくる轟音に首を竦める。
『こちらカルデア、聞こえるかい唯斗君!』
「ロマニ、立香、無線が通じたなら報告だけする。暗殺は失敗、現在オハイオ州のウェストバージニア州との州境に近いエリアで戦闘中。アーサーがクー・フーリン・オルタと女王メイヴに、アキレウスがアルジュナに会敵してる。俺はロビンフッドとその隙に西へ移動中。他のサーヴァント3騎は…命に代えて俺たちを逃がしてくれた」
『そんな…唯斗は大丈夫?!』
オープン無線のため、立香の愕然とした声が聞こえてくる。ロマニも驚いているようだったが、さすがに冷静だった。
『バイタルに異常がないから身体的な危機は現状ないようだね。でも3騎相手にというのはかなり厳しいだろう。アーサー王でもクー・フーリン・オルタは苦戦するのかい?』
「クー・フーリン・オルタはメイヴが聖杯に願って生み出された存在、第一特異点のジャンヌ・オルタと同じだ。ただ、強さは桁違い。アーサーでようやく互角、宝具の全解放をしないと倒せない。となるとアルジュナに対して隙ができる。そこで、アルジュナを戦闘不能にしてから脱出する形を取ることにした」
『俺も東に向かった方がいいかな!?』
「立香は引き続きシータの救出にあたってくれ。今からじゃ、間に合わない。大丈夫、逃げ切るくらいなら勝算はある」
『……分かった。気をつけて』
今から立香が合流を図ってもすべての決着はついている。
唯斗は無線ではいつも通りの口調を維持できていたはずだが、ロビンフッドの背中を掴む手は力が入っていたため、ロビンフッドは気づいていただろう。
それを指摘しない優しさに、少し救われた。