北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−12
唯斗がロビンフッドに背負われながら通信をしていたそのとき、マント越しでも分かる衝撃波が後ろから放たれた。はためくマントの隙間から、すぐ近くの草原に叩き付けられるアキレウスが見えて目を見開く。
「な…ッ、アキレウス!」
「ちょ、おい!」
慌てて唯斗はロビンフッドの背中から降りてマントからも出ると、アキレウスのそばに駆け寄った。焦ったようにロビンフッドも唯斗の近くまで駆けてくると、こちらを泰然と見下ろすアルジュナにボウガンを向ける。
「っ、マスター、だめだ、逃げろ…」
「アキレウスなしで逃げ切れるわけねぇだろ、くそ、さすがアルジュナだな…!」
アルジュナは、なんとアキレウスの踵を正確に狙ったようだった。
なんとかクリティカルヒットは避けているが、それでも右足の踵の半分ほどを抉るような矢の当たり方をしている。
それによって、アキレウスは一気に弱っていた。地面に倒れたアキレウスは唯斗を逃がそうとするが、アキレウスがいないと唯斗も逃げ切れないのだ。ここでアキレウスがやられるのはまずい。
「早く離れなさい、人間のマスターよ」
アルジュナはなおも唯斗は殺さないようにしようとしている。
その一瞬の隙に、唯斗は今打てる最善を考える。まず、呼び出せるサーヴァントはあと1騎が限界だ。アキレウスはそれだけ燃費が悪いのだ。
そして、キャスター・ギルガメッシュも同様であるため選択肢から外れる。ディルムッドもまだ報告がないため呼び出せないだろう。
サンソンとエミヤは一発の攻撃は重いが、アルジュナ相手に隙をつくるほどの攻撃までにはならない。各個撃破される。
となると、ここはアーラシュを呼び出して弾幕を張り、その間にアキレウスに令呪を使うというのが得策だ。
「アーラシュ!」
「…こりゃピンチだな」
唯斗のすぐそばに現れたアーラシュは、状況の悪さに苦笑すると、すぐに弓に矢を装填し始めた。アルジュナと同じく、それは魔力によって無尽蔵に打ち出されるものだ。
しかし、アルジュナもこちらの継戦意欲を理解すると、瞬時に青く輝く矢を弓に構えた。
「ッ、くそ、マスター、一瞬間に合わねぇ…!」
アーラシュが言うとおり、アルジュナの方が一瞬早い。すでに放たれようとしている矢を見て、唯斗は魔術回路をフルで開け、詠唱を開始した。
キャスターに練習に付き合ってもらってようやく実戦で使えるようになった、2節の魔術。
「
我らを試みにあわせず、悪より救いだし給え」
ブルターニュに伝わるケルト系の言語、ブルトン語での詠唱だ。ルーン魔術がケルト系の魔術であるため、キャスターにアドバイスをもらうのは結果的に適切だった。
詠唱の開始とともに、唯斗たちの足下が淡く光り、前に掲げた左手から魔術回路が輝いていく。上半身全体に魔術回路の光が灯り、膨大な魔力が解放されようとしていた。
「マスター…?!」
驚いて振り返るアーラシュと見上げるアキレウスに、唯斗は強がって微笑んだ。
「一撃、俺が防ぐ。アーラシュ、そのあと頼んだ」
「……あぁ、もちろんだ」
直後、アルジュナの矢が放たれる。同時に、唯斗たちを囲うように結界が出現した。ブルターニュの伝統工芸に描かれるような幾何学模様が張り巡らされた結界は、アルジュナの一撃を受け止めて周囲に流していく。
一瞬にして周囲は青白い光に包まれて、轟音が全方位から圧迫してきた。
「ぐ…っ!」
「だ、大丈夫かマスター、」
アキレウスは体を起こして心配そうにするが、唯斗は右手で左腕を押さえて食いしばる。
「だい、じょうぶだ…これくらい…!」
「マスター、結界が解けたらすぐ攻撃に転じる。令呪を使うならその一瞬だ。いけるか」
「やる」
アーラシュに一言だけ短く返すと、アーラシュは満足そうに頷いた。
そしてアルジュナの攻撃が止み、唯斗は結界を解く。その瞬間、アーラシュが矢を放った。
光の矢は結界周囲を取り巻く煙を吹き飛ばしながら空に放たれるとすぐ無数の矢に分かれ、アルジュナに降り注ぐ。数千にも及ぶその攻撃をまともに受ければただではすまないだろう。
アルジュナは上空から降ってくる光の矢の群れに迎撃せざるを得ず、こちらから注意を逸らすしかない。何度もレーザー光線のような矢が分岐しては降り注ぐ矢の雨を吹き飛ばし、その爆風が吹き付けて煙が晴れていく。
唯斗はすぐに、足下で上体を起こすアキレウスに右手を向けた。
「アキレウス、令呪を以て命ずる。俺たちを救い出せ」
途端に大量の魔力がアキレウスに送られ、アキレウスは瞬間的に光を纏うと、すべての怪我がなくなって立ち上がる。そして、ふらつく唯斗を抱き寄せた。
「必ず守る」
そう囁いたアキレウスは力を漲らせており、アーラシュの矢を爆破し尽くしたアルジュナは全快したアキレウスに顔をしかめた。
ようやく周囲から煙が晴れて、惨状が明らかになる。アルジュナの攻撃によって辺りの地面は削り取られ、結界で防がれた唯斗たちの周りだけが無事だった。周囲は1メートルほど地面が削れて一段低くなっている。
クレーターの中央に唯斗たちがいる空間だけが島のように取り残されていた。