北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−13
2節魔術による結界と令呪の使用によって疲労困憊する唯斗と、それを支えるアキレウスを見て、アルジュナは口を開いた。
「なぜそこまでして戦うのです。命は助けると私は告げました。それでもあなたは、サーヴァントとともに立つのですか」
アキレウスに支えられながらも、唯斗は踏ん張って地面に降りたアルジュナを見つめた。
グランドオーダーで戦う理由、それが徐々に変わっていることを、唯斗は第四特異点で自覚した。それは今、はっきりと形になろうとしている。
唯斗はひとつ、息を吸った。
「俺たちは世界を、歴史をあなたたち英霊に託された!そんで、今後は次の世代に託していく。後世に託すべき俺たち人間が戦わなかったら、あなたたちに顔向けできない!」
「―――よくぞ言った」
そんな声が聞こえてきたと思った、次の瞬間には、唯斗たちの前に濃紺の髪が揺れた。長い髪を揺らしながら紅の槍を持った女性が突如として現れたのだ。
その女性は見るからにただ者ではなく、アルジュナはすぐに弓に青白い光の矢を装填して放つが、女性は造作もなく槍で弾き返した。
「ぬるいぬるい。よく鍛えてはいるが心気がこもっておらぬ。これでは小僧の棒投げよな」
「…何者か。今の一撃、渾身のものと自負していますが」
アルジュナが知る人物ではないならインド神話ではない。となると、ケルト側か。槍を持ち、女性の英霊であるというだけなら何人か候補がいた。しかし、このただならぬ気配は思いあたる節があった。
「…ケイローン先生と同じ感じがするな」
唯斗を支えるアキレウスが言うなら、唯斗の予想は当たっているのだろう。
「答える義務はなかろう。通りすがりの神殺しとだけ覚えておけ。この者たちは生かして返す。私がそう決めたのだ。退くがいい、たかだか神に愛されただけの若造よ」
「…そう言われて退く気にはなりませんね」
あくまで冷静に怒りを滲ませるアルジュナだが、そこにアーサーが突然戻ってきて唯斗たちの近くに降り立った。
「アーサー、」
「状況が変わったようだ」
アーサーがそう返した直後、オルタとメイヴがアルジュナの後ろに砂埃とともに着地した。
女性を睨み付けつつ、警戒を滲ませる。
「いや、下がってなアルジュナ。てめぇでもその女は手に余る」
「……、了解しました」
いろいろ言いたそうにしながらも、アルジュナは下がる。それを見て女性はからかうようにオルタに声をかけた。
「よしよし。聞き分けが良いのはいい。貴様と違ってよい子よなぁセタンタよ」
「……いちいち幼名で呼ぶんじゃねぇよ。頭が痛いぜ、まさかあんたまで召喚されているとはな。で?あんたは敵か?」
「おうとも。変わり果てた阿呆を見るのは忍びなくてな。阿呆でも弟子は弟子。介錯してやるが情けだろう」
クー・フーリンの師匠で女性の槍兵と言えば、もう候補は一人しかいない。
スコットランド北西に浮かぶ島であるスカイ島を守護する女王、スカサハだ。影の国の支配者とも神話では言われている。様々な取り上げられ方をされるが、クー・フーリンに英雄たる技を一通り教えたのがスカサハである。
スカサハはオルタに対して煽るように言ったが、突然声音を固くすると本題に入る。
「…で、貴様は何に憑かれた?」
「……」
「答える気はないと。となれば、ここで殺し合うしかない訳だが…少しばかり地が悪いな。私はそこのマスターを逃がさねばならん。貴様は背後にメイヴというお荷物がいる。さらに言えばこちらには騎士王もいるようだ。戦えばどちらも無事では済むまい?」
「よく言うぜ、やるなら真っ先にメイヴをやるくせによ…そのマスターは見逃してやる。あんたもさっさと消えやがれ。やるときは邪魔のいない、誰も彼も死に絶えた後に来い」
「うむ、それが私の役割だろう。貴様が死ねなくなったとき、笑いながら殺してやろう」
悠然と微笑んでそう告げると、スカサハはこちらを振り返る。
「行くぞ」と一言だけ言ったのを見て、ようやく唯斗は体が動けるようになったかのような感覚になった。
「…アーラシュ、ありがとう、戻っていい。アキレウス、宝具展開」
「気ぃつけてな、マスター」
アーラシュは褒めるように唯斗の頭を撫でてから、カルデアに戻る。
アキレウスも三頭立ての戦車を出現させると、そこにアーサーとロビンフッド、唯斗とともに乗り込む。ちらりとスカサハを見るが、スカサハは頷くだけだったため、アキレウスはそのまま飛びだった。スカサハは地面を蹴って追いつけるのだろう。
風を切る音が過ぎていく中、アキレウスはアーサーに抱きかかえられる唯斗を振り返る。
「マスター、」
「うん?」
「…あんたはいいマスターだ。あんたのサーヴァントとして召喚されて良かった」
「え……」
突然の言葉に驚いていると、アキレウスは雄臭く笑ってがさつに唯斗の頭を撫でる。アーラシュといい、いきなりどうしたのか、と思いつつ受け入れていると、風の音の中でもはっきりと分かる優しい声が落ちてくる。
「犠牲があってここにいるんだろうが…あんたが人類史を、俺たちの生きた証を託されてくれんなら、俺たちは全身全霊で戦える、いや、戦いたい。そう思えるマスターだ。だから胸を張って前を向け」
アルジュナが来る可能性を予期しておきながら、ネロたちをみすみす犠牲にすることになった。
その事実からなるべく目を逸らして目の前の戦いに集中していたが、こうして窮地を脱して、ようやく直視するようになっていた。それを察してか分からないが、アキレウスの言葉に、唯斗は一画減った令呪が浮かぶ右手を握りしめる。
「…あぁ。そうする。あいつらが託してくれたんだ、すげぇだろって、俺が示さなきゃならないしな」
景色が飛ぶように過ぎていく前を向くと、風が目元に溜まっていたものを吹き飛ばしてくれる。握りしめた右手を胸元に当てると、アキレウスは「それでこそ俺のマスターだ」と笑った。