北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−14
戦闘を行った平野から1000キロ以上離れた合衆国領に向けてアキレウスの宝具によって進み、その大半の距離を稼いだ。
残りの200キロを切ったくらいからは、アキレウスもカルデアに戻って、ロビンフッドとアーサーと3人で進むことになる。
徒歩になったことで、アキレウスによる移動で補足が追いついていなかったものが再びカルデアと繋がり、唯斗は報告を入れる。
「こちら雨宮」
『唯斗君無事かい?!』
開口一番に聞いてきたロマニに小さく苦笑しつつ、唯斗は「無事だ」とまず述べる。
そして、戦線を離脱してアイオワ州デモインのうち捨てられた要塞に向かっていることを告げた。
『立香君、今最短ルートを送るから急いで唯斗君と合流してくれ』
『うん、了解。あ、そうだ唯斗、こっちはディルムッドとフィンを倒して、無事にラーマも回復したよ。シータ王女は、一緒には…ううん、ラーマと一緒だ』
「……そうか。そうなるか。分かった。サンフランシスコからだと、霊体化を使っても三日はかかるか」
『そうなるね、唯斗君は二日ほどでデモインに到着するだろう。どちらもルートは僕の方で用意するから、なるべく急いでくれ』
ラーマに不貞を疑われたことで、嘆きながら神に招かれ地の底に消えていったシータ。二人が再び出会うことができるのか、神話の内容から疑わしかったが、やはりシータがすべてをラーマに託す形となったようだ。
目的を果たした立香たちがデモインに到達するまでおよそ三日、マシュは霊体化できず立香もいるものの、一方でラーマが全快しているのなら速度は落ちないだろう。
こちらもアーサーに背負われて、ロビンフッドは索敵がてら霊体化して移動している。スカサハに関してはどこを進んでいるのか見当もつかなかった。
通信を切れば、平原を走って進むアーサーとその背に負ぶわれる唯斗の二人だけとなる。ロビンフッドは気を利かせているのかなんなのか、わざわざ離れた場所で霊体化して進むと言っていた。
なんだか二人きりというのは久しぶりのことだった。立香たちをデンバーの要塞から助けてからずっと大所帯だったからだろう。
「…マスター、少し眠るといい。ずっと気が張っていただろう」
すると、アーサーはこちらを僅かに振り返りながらそう提案してきた。まだ陽は高いが、ケルト側の領域にいることもあり、夜にきちんと眠れるか分からないのは確かだった。
いや、そうでなくとも、いったん頭を休めるためにも眠るべきだと言いたいのだろう。
確かに魔力も多く使ったし、高度な魔術や令呪も使用した。その疲れはあったが、とても眠れるような状況ではない。
アーサーは走っていながらも安定していて、ほとんど揺れず快適と言えば快適だ。安心するのも確かだが、脳内は冴え渡っている。
「…眠れるわけない」
「この特異点ではずっと気を張り詰めているんじゃないのかい?大方、第四特異点であまり役に立てなかったという負い目があるんだろう」
「ッ、それは…」
ないとは言えない。いや、それは事実だ。
ロンドンでほとんど活躍できなかった唯斗は、きっと、無意識に積極的になっていた。
「……立香だけで十分、グランドオーダーは実現できる。俺は、最初からいなくてもいい存在だった。ここでだって…立香はちゃんとやって、俺は失敗した。もちろん、ワシントンでのことは俺の采配ミスとかいう次元じゃないのは分かってる。ネロたちの犠牲を失敗なんて言葉で片付けたくもない。でも…」
頭では分かっていても、どうしても、情けなさで嫌になる。ネロたちが犠牲になったことを報告したとき、通信の向こうでエリザベートが動揺していたのが分かった。カルデアの英霊とは違い、特異点で召喚された彼らは、倒されればそれで終わりなのだ。
つい、情けない声で言った唯斗に、しかしアーサーは優しく微笑む。
「やっと吐き出してくれたね。自分の中でぐるぐるとさせているようだったから、きちんと外に出して欲しかったんだ。そういう、後ろ向きな感情や、後悔、悔しさも」
「アーサー…」
「君が世界にぶつかっていくことも、それによって生じる葛藤も、すべて大事なことだ。そして僕はそれをすべて、受け止めてあげたい。そう思って、君の隣にいる」
唯斗のことを物理的にだけではなく心まで守ろうとしてくれるアーサーは、その言葉通り、ずっとこの特異点でも見守ってくれていた。
今感じているこの感情も大切なものだと、それごと守りながら前を向いて特異点で戦えるようにしてくれているのだ。
アーサーがそうやって見守ってくれているのなら、唯斗はこの悔しさも苦しさも、大事に心に留めておこうと、そう思った。