北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−15
デモインの要塞に入って次の日、立香たちが到着した。
久しぶりに会った立香たちを迎えて要塞の中に入り、エントランスに腰を落ち着けて事情を説明すると、やはりエリザベートは一人になると言って出て行った。
一方、話からスカサハの正体に気づいたロマニが『ひょっとして…』と通信越しにも唖然としていると、突如としてスカサハが霊体化を解いて現れた。
「遠見の魔術か、趣味がいいとは言えんな。性根もなっとらん」
『こ、これはどうも…』
「自己紹介だ。我が名はスカサハ。ま、そこなマスターはすぐに理解していたようだったが」
どうやらオルタたちと対峙しているとき、背後で息を飲んでいた唯斗に気づいていたらしい。あのときはあえて名前を呼ばなかったが、案外簡単に名を明かす。
一通り唯斗たちも名乗ってから、唯斗は気になっていたことを尋ねた。
「スカサハ、あなたは不死性を持つ類いの人物だ。それに影の国は一説によればマーリンのアヴァロンにも似た隔絶された空間。本当に英霊か?いや、なんなら…あなたは、死んでいないのならそもそも英霊じゃないんじゃないか」
「ほう、なかなか鋭いな。そうだ、私は本来死んでいない。だから通常はサーヴァントにはなり得ない。しかし、魔術王による人理焼却は影の国にもおよび、事実上、私は死んだことになっている。だからこうして聖杯に呼ばれケルト側としてこの大陸に召喚されたのだが、その影響を受けず、ケルト側を抜けてきたのだ」
やはりマーリンやアーサーと同じで、死んでいないためサーヴァントにならないタイプの英霊だった。しかしアヴァロンと違い、影の国は世界の延長線上にあるため焼却がおよび、スカサハは死んだことになっている。そのため、この特異点に呼び出されることになった。
「おかしなことになっておる特異点をあの阿呆弟子ごと叩き切ってやろうかとも思っていたが、そこのマスター…唯斗と言ったな。その言葉通りであるが故、手助けしてやることにしたのだ」
『言葉?』
通信が追いついていなかったときのため、唯斗がアルジュナに啖呵切ったときはカルデアの捕捉外にあった。
「人間である自分たちが戦わなければ、世界を託した英霊たちに顔向けできないと言ってのけた。…なかなか見所のある若造よな」
『唯斗君がそんなことを…!』
何やら極まったようなロマニと、感心するナイチンゲールとラーマ、目を輝かせるマシュと立香に、気恥ずかしくなって堪らず唯斗は隣に立つロビンフッドのマントで顔を隠した。
「あざといですよダンナ。まったく…」
「とても素敵です!唯斗さん!それにスカサハさんも、改めて助けていただきありがとうございます。あの、一緒に戦っていただけるのでしょうか…?」
唯斗への助け船でもあり、話を進めるため、マシュはスカサハにそう切り出した。
助かる、と思いつつロビンフッドのマントから顔を上げると、スカサハは困ったようにした。
「それが難しい話でな。手助けはするが共闘はできぬ。私のやり方では時代の修復は叶わない。加えて…うむ。恐らく、あのクー・フーリンには勝てまい」
『なんだって!?』
ロマニが驚くのも無理はない。クー・フーリンの師匠であり、必殺の槍を二槍で扱うこともあるとされる女傑だ。英霊を超越した神霊にも近しい存在である彼女が勝てないほどの相手では、もうカルデアがよく知るクー・フーリンとは別の存在だった。
「聖杯が生み出した存在だけあるな。ジャンヌ・オルタだって、ただの農村の娘が邪竜ファヴニールを操る存在になってた。ソロモンの聖杯はただの願望機の域を超えた、時代を狂わすほどの力をもったモンだ。それに邪悪な王としてのクー・フーリンを願ったんだ…まさに化け物だ」
「俺たちの方では、ベオウルフを倒し損ねてるから、敵はオルタとメイヴ、ベオウルフ、それにアルジュナってことだよね。結構残ってるな…」
「ベオウルフ…ケルトの源流、アングロ=サクソン最古の英霊までいんのか」
立香が会敵した中にはベオウルフ、英語で書かれた文学の中で最古の叙事詩の主人公であり、ドラゴンというものの原型を生み出した作品においてそれを倒した英雄までいるらしい。ベオウルフが活躍したのはスウェーデン南部だが、もともと英国に暮らす民族・アングロ=サクソンは北ドイツからスカンジナビア半島南部にかけて暮らしていた民族だ。
イングランド、オランダ、デンマークは民族として親戚関係にあり、唯斗が暮らしたブルターニュの文化もそうした北海周辺の文明に端を発するものである。
「…まぁいずれにしても、ケルト兵が増産され続ければいずれ合衆国も押されて特異点修復が不可能になる。最大の目標はメイヴを倒して聖杯を回収することだ。クー・フーリン・オルタを意識しすぎて大義を見失わないようにしないとな」
唯斗がそう言ったところで、外が騒がしくなってきた。どうやらケルト兵が攻めてきたらしい。気が立っているエリザベートを発散させる必要もあるし、どうやらスカサハも唯斗たちマスターの腕試しをしたいらしいため、一度戦闘に入ることになった。
大義はメイヴを倒すこと、と言っても、それがクー・フーリンを倒すことでもあることは、その場にいる全員が分かっており、手詰まり感を払拭するための戦いでもあった。