特異点F: 炎上汚染都市冬木−14


管制室に入ると、すでに復興したのか、爆発前と変わらない姿になっていた。そこにマシュが待機している。たった20人でよくここまでやったものだ。


「唯斗さん、よかった」

「マシュもな。夢かと思ったけど…これが現実か」


唯斗の視線を追って、マシュも表情を暗くする。管制室の先、ガラス壁を隔てたところに鎮座する巨大なカルデアスは、変わらず真っ赤に染まっていた。


「立香君がいつ起きてくるか分からないから、二人には先に状況を説明しよう。立香君のところにはダ・ヴィンチについていてもらってるから安心してくれ」

「分かりました。お願いします」


そうしてロマニは、ここまでに分かったことを先に二人に説明した。その内容は、唯斗が特異点Fで考えたことよりも、些か深刻だった。

まず、レフの言葉通り人類はすでに滅んでいる。外部とは連絡がつかず、2016年から先の未来は存在しない。
人類を滅ぼした原因、それは特異点の発生による歴史の改変だ。連綿と続く歴史の流れに撃ち込まれたボルトのように発生した特異点は、人類のターニングポイントである「人理定礎」を狂わせ、歴史を破壊した。それ以降の人類史を狂わせて文明の発展を阻害した。そうして狂った末に、正史は焼き尽くされた。

「人理焼却」というこの大事変によって、正当な歴史を歩む世界はあまねく燃やし尽くされており、その状態を創り出したがために正史から外れた時空に存在する狂った人理定礎の空間こそが特異点である。

そしてそれが、7つ見つかっているという。

この特異点に赴き、人理定礎を復元することで正史に穿たれたボルトを外して、歴史の正当性を復興させる。それによって焼却の定めを変えるのだ。


「…人類の歴史が狂って、人理が焼却されているだなんて…」


マシュは胸に手を当てて恐ろしそうに呟く。ロマニはこちらに視線を向けた。大丈夫か、ということだろう。


「……別に、それはそれでいいんじゃないのか。困る人間も滅んでるんだから」

「えっ、唯斗さん…?!」


マシュが驚いた声を出したところで、管制室の扉がスライドして開いた。やってきたのは立香だ。

ロマニは立香にも同じ話を繰り返すが、その間、マシュはこわごわとこちらを伺っていた。


「結論を言おう」


ロマニが立香から二人にも意識を向けたため、三人揃って傾聴姿勢となる。ロマニは普段のお茶らけた顔をやめて、真剣な表情で三人を見下ろした。


「この7つの特異点にレイシフトし、歴史を正しい形に戻す。それが人類を救う唯一の手段だ。けれど僕らにはあまりに力がない。マスター適正者は君たちを除いて凍結、所持するサーヴァントはマシュだけだ。この状況で君たちに話すのは強制に近いと理解している。それでも僕はこう言うしかない。マスター適正者48番藤丸立香、49番雨宮唯斗。君たちが人類を救いたいのなら。2016年から先の未来を取り戻したいのなら。君たちだけで、この7つの人類史と戦わなくてはならない。その覚悟はあるか?君たちにカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」


こちらの覚悟があろうと力がなかろうと、できるのは唯斗たちしかいない。ロマニの言う通り、こんな確認に意味はない。
立香は神妙に頷いた。


「……俺にできることならやります。それに、唯斗は優秀な魔術師ですし」


そしてそう言って、立香は隣の唯斗に視線を向けてきた。それが若干煩わしくて、唯斗はため息をついてから口を開いた。先ほどの続きだ。


「……悪いけど、俺は正直どうでもいい」


立香は驚き、マシュはなぜ、という疑問の目線を向けてくる。ロマニは目を伏せていた。こう言うと分かっていたのだろう。


「でも、死にたいわけじゃない。生きたい理由もないけど。カルデアにいないと生きられない、でも働かぬ者食うべからず。仕事はやる」


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