特異点F: 炎上汚染都市冬木−15
別に人類がどうなろうとどうでもいい。世界にも人類にも、唯斗は愛着などなかった。
しかしわざわざここで自殺するつもりはないため、ここで生活するしかない以上、何らかの形で貢献する必要があるだろう。それならば、言われた仕事はやる覚悟だ。
それに、と内心でだけ思っていることもある。それはオルガマリーのことだ。誰にも認められなかったと叫んだ彼女の言葉は唯斗にも通ずるものが多くあり、その悲痛さが突き刺さった。何もできなかったからこそ、せめて、彼女が間違っていなかったと証明する手伝いくらいはしたかったのかもしれない。そんな積極的な考えはしたことがなかったため、正直この辺りは唯斗自身でも曖昧だ。
「…唯斗は怖くないの?人類が滅ぶんだよ。死ぬんだよ、俺たちだって」
すると立香は純粋にそう尋ねてきた。ただ気になっただけだろう。一般人である立香には、この状況はきっと恐ろしいはずだ。実感が湧かないかもしれないが、先ほど実際にオルガマリーの死を目の当たりにした。それだけで十分だ。だからこそ、立香は死を恐れない唯斗が不思議なのである。
「それがなんだ。別に元から生きたくて生きてるわけじゃなかったんだ。変わらないだろ。それよりも、人類を救いたいって気持ちがない以上、立香が主軸だ。俺は予備、立香がダメになったら俺が主担当になるだけ。準サーヴァントとでも思ってくれればいい」
あくまでも唯斗は予備員だ。この状況では正規のマスターとなるほかないが、扱いとしては立香の予備として徹底するつもりである。
なぜなら、こんな生半可なモチベーションのヤツを軸にすることに、なんのメリットもないからだ。立香は確かに一般人枠だが、マスター適性は問題ないし、魔力が少なくともカルデアのシステム・フェイトとカルデアの電力供給があれば問題ない。適性さえあればいいだけなのだ。
そして立香は、人に愛されるタイプの人間だ。決して頭が悪いわけではないし、知らないだけで知ればきちんと適した行動がとれる。戦闘の采配も経験値を積めば素晴らしいものになる。相手をよく見ているのだろう。唯斗にも、いろいろと物怖じせず言ってくるが、唯斗を不快にさせることを言わない。かなり唯斗の性格を理解してくれているようだった。
「…何にせよ、唯斗以上に心強いサポートはないよ」
「あっそ。ドクター・ロマニ、これが回答だ」
今も、立香はそう言うに留めて食い下がらなかった。そういう立ち回り方は心地よく、意外と立香の隣にいることは嫌ではなかった。
そんなことを言えるはずもなく、唯斗はロマニにそう伝える。視線をそちらに上げれば、ロマニも頷いた。
「ありがとう。君たちの言葉で、僕たちの運命は決定した。これよりカルデアは、前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続の尊命を全うする。我々が戦うべき相手は歴史そのものだ。君たちの前に立ちはだかるのは多くの英霊、伝説になる。それは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜だ。我々は人類を守るために人類史に立ち向かうのだから。けれど生き残るにはこれしかない。いや、未来を取り戻すには、これしかない。たとえどんな結末が待っていようともだ」
もしかしたら、人類はここで滅びた方が良かったのかもしれない。だがそれは未来にならなければ分からない。いや、人類がそうならない未来をつくるよう、チャンスを生み出すのがカルデアの使命と言ってもいいのかもしれなかった。
「以上の決意でもって、作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・グランドオーダー。魔術世界における最高位の使命をもって、我々は未来を取り戻す!」