北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−17


「アーサー、一騎打ちの方が楽か」

「…そうだね、場所が場所だ」


廊下という狭い空間では、何騎も連れだって戦う方が難しい。
黄金の槍を構えるカルナに、見えない剣を向けるアーサーは全身に緊張感を張り巡らせている。ここまでアーサーが警戒するところを見せるのは、どの特異点でもなかった。強いて言えばソロモンが現れたときくらいだが、あれとは性質が違う。

カルナやクー・フーリン・オルタがどれだけトップクラスの英霊なのか、アーサーの様子で窺えてしまった。


「あのときの続きといこうか、施しの英雄よ」

「あぁ。いざ尋常に」


直後、二人は廊下の中央で激突した。
瞬間的に衝撃波が廊下を走り、壁に亀裂が入って天井の塗装が剥落してくる。それを払いながら、結界で風を防いで二人の戦闘を見守ろうとするが、その戦いはとても目で追えるようなものではなかった。

アーサーの方が優勢のように見えるが、カルナは槍のリーチで距離を取って目から光線を出すことでアーサーに決定的な距離に近づけず、アーサーも決めきることができない。

一瞬にして廊下は半壊し、壁も天井も崩落している。要塞のあちこちから悲鳴が聞こえてくる。
これでは上階が崩落してきそうだ。

そう思ったときだった。カルナが発したビームがアーサーの剣によっていくつかに割かれ、それがこちらに漏れてきたのだ。目の前に迫る光線に、咄嗟に結界を展開して避けるが、結界は僅かに光線の方向を逸らしただけで、背後の柱を破壊する。
それにより、かろうじて支えていた天井が崩壊し、大量の瓦礫が降り注いできた。


「ッ、」


息を飲んで、唯斗は避けようとしたが、足が瓦礫に引っかかってもつれる。
間に合わない、そう思ったが、瓦礫が直撃することはなかった。思わず目を瞑っていたのを開けると、そこにはカルナが槍によって瓦礫を支え、唯斗を覆い被さるように庇っているのが見えた。


「…カルナ……?」

「怪我はないか」

「大丈夫、だけど…なんで…」


間近に迫ったカルナの端正な顔を見上げると、カルナは小さく笑う。


「確かに俺はエジソンの味方だが、人類の敵ではない。人の子を守るのは英霊として当然のことだろう」


やはり、どこまでいってもカルナは英雄だ。遅れて駆けつけたアーサーは、カルナが瓦礫をどかすのを手伝いつつ、唯斗のそばにしゃがむ。


「大丈夫かい、マスター。すまない、君のサーヴァントでありながらカルナに後れを取ってしまった」

「気にするな騎士王、俺なのだから当然だ」


カルナの言葉を聞いて、アーサーと唯斗は思わずぽかんとカルナを見上げる。ひどく傲慢な言葉だが、カルナのような謙虚な英霊には似合わない。
ひょっとして、といった感じでアーサーは口を開く。


「あー…自分の攻撃によって生じた出来事なのだから自分が助けて当然だ、ということかな?」

「?そうだ。その通りに伝わらなかっただろうか」

「そう、だね、うん、自分ならできて当然だ、というニュアンスに聞こえるかな」

「そうか。俺は言葉が足りないとよく言われる、悪かった」


どうやら致命的に言葉が足りていなかっただけらしい。カルナはトーンを変えずに淡々と答えるため、アーサーと唯斗は顔を見合わせると、揃って苦笑する。
カルデアのサーヴァントたちとはまた少し違う天然さだ。

ちょうど戦闘が予想外の形で区切りがついたところで、カルナがぴくりとする。


「む、どうやらここまでのようだ。主から戻れと連絡があった。自分で蹴りをつけたくなったらしい」

「総力戦をお望みってことだな」


唯斗が言うと、カルナは頷く。すぐに踵を返して廊下の先へ進もうとする背中に声をかける。


「カルナ、」

「なんだ」

「ありがとう、助けてくれて。俺はあなたのその在り方を、病気だとは思わない。カルナという存在に、きっとインドの人々は、どんな境遇にあっても他者を思いやれる人間でありたいという願いを託していたんだ。それは病気なんかじゃない、時代を超える人の願いだ」


唯斗の言葉に、カルナは驚いて振り返る。そして、先ほどよりも深い笑みを浮かべて唯斗の頬に長い指を滑らせた。


「…お前が、人類最後のマスターで良かった。もう一人の少年もまっすぐで、人という生き物の良いところを体現したような人物なんだろう。人類にとっての僥倖だったのかもしれないな」

「…カルナ、」

「俺はこの先で待っている。そこですべて決着をつけ、この特異点を修復するための戦いをしよう」


今度こそカルナは廊下を歩いて行った。カルナはエジソンの味方であるが、それはそのまま唯斗たちの敵ということではない。彼もまた、人類史の存続を最終目的だと認識してくれているのだろう。
そんな英霊がこの特異点にいてくれて良かったと、そう思った。


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