北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−18


先に行ってしまったカルナを追いかけるように、唯斗とアーサーも向かおうとしたが、唯斗が転んだときに足を捻ってしまったようで、まずはそれに治癒をかけてから行くことにした。


「いてて…」

「僕が背負って行こうか?」

「回復してからのが早いだろ。なに焦ってんだアーサー」


逸るようなアーサーをそう窘めると、アーサーは息を詰まらせてから、小さなため息をついた。アーサーにしては極めて珍しい所作だ。


「…格好のつかないことをしてしまっているな、僕は」

「いきなりどうした」


ボロボロになった床に座って足首に手を当てる唯斗は、その隣に膝をついて唯斗の背中を支えてくれるアーサーを見上げた。
唐突にネガティブなことを言い始めたアーサーはフードまで被ってしまう。


「マスターの身に危険が迫っていたのに、カルナに遅れを取って助けに行けなかった。第四特異点でもそうだったけれど、まだ16の君に窘められるなど、一人の王として、大人としても情けないことだ」

「…そうか?」


アーサーがこのような言動をする珍しさに、唯斗はどこか胸の奥がくすぐられるような感覚になった。先ほどカルナも、微笑んだことを驚かれた際に「俺も人の子だ、人並みの感情はあるよ」と言っていたが、アーサーも完璧な王様、というわけではないのだろう。
それは当然のことのはずなのに、改めて気づいたような気になった。

唯斗は、背中を支えつつフードを目深に被ってしまったアーサーに、そっと凭れた。軽く体重をかけると、アーサーは不思議そうにしながら受け止めて肩を抱いて支える。


「…俺は、そういう人間っぽいところ見ると安心するけどな」

「……そうなのかい?」

「何度か言ったけど…アーサーは俺にとって特別な存在なのは確かだから、あんまり俺とは違う存在だってこと、意識したくないんだ。別の世界の英霊だとか、そもそも人間じゃないだとか。埋められない差を見せつけられるみたいで、嫌だ。だから、こうやって人間味のあるところ見せてもらえると、安心する」

「マスター…」


足首の治癒が終わり、唯斗は問題なく力が入ることを確認する。通信では、エジソン、ブラヴァツキー、カルナに対して立香たちが対峙していることが窺えた。そろそろ行かなければ。
唯斗は立ち上がり、同じく立ち上がったアーサーのフードを、少し背伸びをして外した。いつ見ても、世界で最も綺麗な顔なのではないかというような精悍な顔つきが姿を現す。


「俺のセイバーなんだ、隠れるな」

「っ…、君は本当に……あぁ、そうだね。誇れるマスターの下で我が剣を振るえるんだ、堂々としなければね」


立ち直ったアーサーとともに、唯斗は廊下を走り出す。目指すは玉座。
そこからは、通信ですでに会話が聞こえてきていた。

どうやら無事に戦闘は片がついているようで、今は会話をしている。ナイチンゲールが病と断じたエジソンに、問診と言うには高圧的な会話が投げられているようなものだが。

するとその中で、エジソンの驚きの事実が明らかになった。なんと、エジソンは単独で存在する英霊ではなく、合衆国大統領のすべてがその力を託しているらしい。
そのため、エジソンはライオンの姿になっており、ときどき言動が彼らしからぬものになっていた。
エジソンはその合衆国を救おうという大統領の願いと、自身がケルトに対して大量生産で負けたくないというプライドが合わさり、この状況に陥っていた。


『私たちには、この世界を癒やさなければ、救わなければならないという使命がある。イ・プルーリバス・ウナム、多数の民族から成立した国家であるあなた方は、あらゆる国家の子供に等しい。ならば、あなたには世界を救う義務がある』


E Pluribus Unum、事実上の米国のモットーであり、すべてのコインに刻印されている。ラテン語での発音はエ・プルリブス・ウヌムとなる。
50の州からなる一つの国家である、というニュアンスとして当初は語られるようになったものだが、やがて多民族国家としての性格が強調されるようになると、宗教や民族などのエスニシティを包含する国家という意味に取って代わった。
特に2001年の同時多発テロのあと、保守的な政権下にあって極右がイスラームへの差別を表面化していくようになる中で、人種のるつぼである米国としてそんなことは許さないという人々の意識の形でもあった。

やがて、廊下は玉座へと至る。すぐに合流できる、と思いながら通信に耳を傾けた。


『そこから目を逸らして、自分の国だけを救おうとするから、エジソンは苦しむのです』


最後の方は通信とナイチンゲールの声、両方が聞こえるようになり、玉座に唯斗とアーサーが飛び込む。


「そして、そんなだから、同じ天才発明家としてニコラ・テスラに敗北するのです、あなたは」

「うっわ…」


なんてクリティカルなことを、と思った通り、入った瞬間にナイチンゲールがとどめを刺して、エジソンは雄叫びを上げながら倒れた。ビクビクと痙攣している。さぞ致命的な傷を負ったことだろう、心に。


「あ、唯斗、大丈夫?」

「問題ない、悪いな遅くなって」

「大丈夫、大した戦闘になってないし…それに、ナイチンゲールが言論で倒してくれたから」

「ナイチンゲールVSエジソンか、子供が泣くな」


立香はあっけらかんとしている。ラーマやエリザベート、ロビンフッドもいるし、立香自身のサーヴァントもいるため、実質戦力ではないエジソンとブラヴァツキーを除いてカルナしかいない状況では勝てて当然だろう。


こうして、ナイチンゲールの言葉によって荒療治ながら目覚めたエジソンは、ブラヴァツキーとカルナの励ましもあって立ち直り、立香たちとともに世界を救うために力を振るうことを決めた。
敵はあまりに強大だが、ここからは真に東西戦争となる。


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