北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−20
ケルト・北欧・アングロ=サクソンの原典、英語最古の英雄譚に描かれる竜殺し、ベオウルフだ。立香たちが倒し損ねた豪傑である。これは集中する必要があるだろう。
「…立香、ベオウルフが現れた。戦闘する」
『気をつけて』
通信を一度そこで終えると、唯斗はベオウルフに正面から向き合った。
ベオウルフはこちらに気づくと、ニヤリとする。
「ほう、この前のヤツとは別の方のマスターか。いいサーヴァントを従えてやがる」
「ベオウルフ、あんたは英雄だが、どっちかって言うと戦いたい願望が強すぎるタイプのバーサーカーだな」
「よく分かってるじゃねぇか!話の早いヤツは好きだぜ」
「エリザベートとロビンフッドは引き続きケルトの方を頼む。あんま得意なタイプじゃないだろ」
小声で警戒する二人にそう言うと、二人は驚いた顔をした。
しかしすぐにエリザベートはすました顔に、ロビンフッドはニヒルな笑みを浮かべる。
「分かってるじゃない。じゃ、任せたわよ」
「ああいう手合いは苦手なんですよね。ケルト軍の方は俺たちで押しとどめておくんでよろしく頼みますわ」
これはただの優しさなどではない。ああいうサーヴァントには、複数で挑む方が危ないときがある。味方に攻撃が当たる可能性が高くなるためだ。
攻撃が大仰なエリザベートや、遠距離攻撃に特化したロビンフッドはそもそも戦いに加わらない方が合理的だった。
本人たちも分かっているため、早々にケルト軍を相手取っての戦いに戻った。
一方で、唯斗はいったんアーラシュを下がらせ、ギルガメッシュとアーサーへの魔力の供給に回す。それによって、二人でベオウルフを相手にさせることにした。
「ベオウルフ!ブリテン王とウルク王が相手で不足はあるか!」
「ハッ、上等じゃねぇか!」
目をギラリとさせて槍を構えるベオウルフ。アーサーは剣を構え、ギルガメッシュは唯斗の隣で魔杖を4門のゲートから出現させる。
「二人とも、英霊とはどうあるべきか、教えて差し上げろ」
「了解した、マスター」
「よかろう」
真面目に返したアーサーに対して、ギルガメッシュは楽しげなままだ。何がそんなに機嫌を良くしているのかと、隣のギルガメッシュを見上げると、今度こそ目が合った。
アーサーとベオウルフの戦いが始まって轟音が轟く中で、ギルガメッシュは形の良い唇を開いた。
「戦闘となると、貴様は良い目をする。日頃の無気力さや訓練の真面目さではない、『勝て』という絶対的な圧。信頼を超えたその重圧、我たちの支えた歴史というものへの敬意がそのまま我たちへの期待という名の圧力に変わったものだ」
「そう…なのか?よく分からないな」
「分かって出せるものではなかろうよ。不敬だと言ってやりたいところだが…まァ、心地の悪いものではない故な、特に許す」
どうやら戦闘時の唯斗の様子がお気に召したらしい。自分ではよく分からないが、上機嫌なのは悪いことではない。
カルナとの戦いを彷彿とさせる激しいアーサーとベオウルフの戦いを見守りつつ、ギルガメッシュの適切なフォローで様子を見ていると、背後から敵意が背筋をなぞった。
咄嗟に振り返りつつ結界を展開すると、すんでのところで、ケルト兵の剣を結界が弾いた。
即座に唯斗はガンドによって兵士を吹き飛ばす。
どうやら押し切られそうになっているらしく、エジソンたちの方から討ち漏らされた兵士たちが続々とこちらにやってきていた。
やはり、唯斗とサーヴァントたちが抜けた分、徐々に数量で圧迫されているようだ。