北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−21
こちらに近づくケルト兵たちを倒していくと、今度はベオウルフがアーサーを弾き飛ばしたらしい、アーサーが距離を取った隙に、フォローが鬱陶しかったのか、ベオウルフはギルガメッシュに一瞬で迫り、槍を薙ぎ払った。
ギルガメッシュはすぐに出現させた巨大な黄金の斧で受け止めたが、やはりベオウルフの膂力に敵わず、弾かれて離れた場所に着地する。
そしてベオウルフは、そのまま薙いだ槍をもう一度振るって、唯斗に向けていた。
「ッ、ディルムッド!!」
ほぼ考えずに叫んだ直後、唯斗の目の前に現れた逞しい背中が、迫る槍を自身の2本の槍で受け止めた。
甲高い音が平原に響き、ベオウルフが目を見開くのが見える。
「…やっとあなたを守れます、我が主よ」
一瞬だけ振り返ってそう言ったディルムッドは、すぐにベオウルフの槍を弾いて迫り、連続して槍による攻撃を脇腹に入れる。ベオウルフは呻いて鮮血を散らしながらすぐに距離を取ろうとしたが、ディルムッドはそれを許さず、追撃によって次々とベオウルフに槍を突き出していく。
「そいつの、呼び出しに、応じてたんだなッ!」
「あぁ、敵に俺がいると聞いて気が気でなかった。我らが文明の先達であるあなたと槍を交えること、この喜びよりも、主をようやく守れることに安堵している。悪いな」
「ハッ、ったく、ケルトのヤツらは大概だな!」
特異点に召喚されたディルムッドにすら僅かに影響したほどだ。ディルムッドはカルデアでも相当に気をもんでいたらしい。
なんとかディルムッドから離れたベオウルフだったが、アーサーとギルガメッシュも立て直し、多勢に無勢となる。
一方で、かなりケルト軍も押してきており、こちらもまったく余裕などなかった。
「…くそ、ベオウルフにかかりきりになるわけには……」
「なら、儂が相手をしよう」
そんな声がしたと思った次の瞬間、燃えるような赤い髪の青年が、ベオウルフに槍をたたき込んだ。
デモインで出会った、李書文だ。
「李書文…!?なんでこんなところに…」
「おっと、誰だあんた」
「通りすがりの神槍である。真名を李書文。名高きベオウルフと打ち合えるとは。ときにベオウルフとは、怪物グレンデルを素手で倒したと聞く。運命とは数奇なものだな、偶然にも無手で戦えるサーヴァントが二人、出会ってしまったのだから」
「李書文…知ってるぜ。確かに数奇だなぁ。ってことはあれかい?いわゆる素手喧嘩か?」
「我が拳がどこまで届くか試させてもらおう」
「いいだろう」
戦闘狂同士、と言えばいいのか。
何やら周囲を置き去りにして話を進めた二人は、唐突に殴り合いを始めた。殴り合い、というには、衝撃波が砂埃を立てるほどで、いくら英霊とはいえ元は同じ人間だったとは思えないようなものだった。
これで方や19世紀の人間なのだ、中国とは末恐ろしい国である。
「あれが、近代中国に知られる李書文ですか。私もぜひ、槍を交えたいものです」
いつの間にか唯斗のそばに戻ってきていたディルムッドが羨ましそうにする。そうだ、ディルムッドはどちらかと言えばあちら寄りの男だ。
同じようにアーサーとギルガメッシュも戻ってきたが、アーサーは感心したように、ギルガメッシュは呆れたようにボクシングと化した二人を見ていた。
「まったく、これだから戦闘狂いというヤツは」
「大英帝国と超大国の源流であるベオウルフ、ギルガメッシュの時代から続いた4000年の帝政の終末に現れた李書文。ある意味では納得の二人だな」
いずれにせよ、ベオウルフは李書文に任せておいていいだろう。こちらは再びケルト軍の駆逐に取りかかるべきだ。
「アーサー、ギルガメッシュは引き続きケルト兵への攻撃。ディルムッドはこっちに入り込んだヤツの放逐と俺の護衛」
「了解」
「英霊使いの荒いヤツめ」
「必ずお守りします」
見事なまでにバラバラな返事である。こちらはこちらで、極めてキャラの濃い英霊たちだ。
すでに太陽は平原の向こうに消え、空は群青に染まりつつある。いよいよ、三日目が迫っていた。