北米神話大戦イ・プルーリバス・ウナムII−26


そう笑って、エリザベートは退去した。光に包まれて消えた後に、ブラヴァツキーがエジソンたちに声をかける。


「ほら、私たちも退去するわよ!最後くらい、おとなしくできないの?」

「む、次は真っ当なサーヴァントとして世界を救おう!そうミスター藤丸にも伝えておいてくれ、ミスター雨宮!少なくともこの素っ頓狂よりはマシな働きをしてみせよう!」

「サーヴァントは選んだ方がいい、現代の子よ。私の電気こそ真の電気なのだから、常に本物を知るべきだ」

「…ほう」

「あん?」


再びがしっと組み合った2人に、ブラヴァツキーはため息をつく。唯斗は放っておいて、ブラヴァツキーとも向き合った。


「ありがとう、マダム・ブラヴァツキー。欧州の文化こそ受容するべきだと勘違いしていた19世紀のアジアに、文化を再発見して気づきを与えてくれたあなたに会えて良かった」

「ありがとう。でも、きっと私にも、白人としてアジアへの至らない理解や誤解もあったわ。必ずしもあなたが言うような代物ではなかったかもしれないけれど…サーヴァントとして、一緒に戦えたことは私も光栄よ。また会いましょう、唯斗」


にっこりと笑って、ブラヴァツキーはエジソンたちに発破をかけてから、3人で退去していった。一気に静かになった平原に最後に残ったロビンフッドは、「あー…」と気まずそうにしながら頬をかく。


「ロビン、何度も守ってくれてありがとな。エリザベートもそうだけど、ロビンはもうカルデアにサーヴァントとして召喚されてる。記憶は共有してないけど、また一緒に戦えるのは頼もしい」

「…そうですねぇ、あんたの隣は、なんというか、落ち着くというか。守りたくなるんですよ、オタク。きっとカルデアの俺も同じだと思いますよ」

「そ、うか…」


なぜかロビンフッドが照れるものだから、つられて唯斗も気恥ずかしくなってくる。
そうしていると、アーサーが咳払いをした。ロビンフッドはびくりと肩を揺らす。


「ま、まぁ、あんたには頼もしすぎる騎士様がいっぱいいるみたいですし?俺の出番はないんじゃないですかね」

「…俺も、ロビンの隣は落ち着くっていうか、一般人に近い気質だろ、お前。だからほっとするんだ。守ってくれとは言わない、一緒にまた戦おう。次は、誰も死なないように」

「……そうですね。それにはまったく同感ですわ」


ふっとロビンフッドは小さく笑う。そして、一瞬で距離を詰めると、唯斗の額にそっとキスを落とした。驚いて動きを止めた唯斗に、いたずらっぽく、いつものニヒルな笑みを浮かべて飄々と言った。


「どうせ記憶共有しないんで、後で赤っ恥かくのはそっちの俺でしょうから、これで褒美ってことで。じゃ、また会いましょう、唯斗」


そう言いつつあっという間に退去して消えていったロビンフッドに、アーサーはため息をつく。


「まったく、油断も隙もない。というか、マスターに隙が多すぎる」

「…いや今のは想定外だろ」


顔に熱が集中している自覚はある。というか、本人も赤っ恥かくと言っているくらいにはこっぱずかしいことをしたと思っているようだ。まったく、最後にとんでもないことをしてくれたものだ。


「…まぁ、今回は本当に彼の世話になったしね、特別に許そうじゃないか」

「なんでアーサーが許すんだよ…まぁいいや。そろそろレイシフトだな。今回もありがとう、アーサー」


改めて言うと、朝日に照らされるアーサーの金髪が輝くのが見える。翡翠の瞳は和らいで、唯斗の腰を抱き寄せる。至近距離になったアーサーの顔を見上げると、アーサーは綺麗に微笑んだ。


「さっきアキレウス殿が言っていた通りだ。僕も、きっと他の君のサーヴァントも、君がマスターで良かった。そう再確認できたよ」

「そう、か…?」

「そうだとも。本当に成長した。まだこれからも、君は大きく成長するんだろう」

「……アーサーが隣にいてくれるからだろ」


本当に嬉しそうにそう言うものだから、唯斗は思わず、アーサーに抱きつき返した。その肩口に顔を埋めると、肩掛けの青い布越しに固い鎧を感じる。もうレイシフトが近いというのに、わざわざアーサーは鎧を消してくれた。
それによって、より深く抱きつく。


「ずっとアーサーが見守ってくれてるから、俺は、サーヴァントや世界に、向き合っていけるんだ。そう、アーサーが言ってくれたから」


ローマでもロンドンでも、アーサーは見守っているから世界にぶつかって行くといい、と言ってくれた。だから、唯斗は怖じけずに世界に向き合えたのだ。


「ほとんど感情なんて動いてこなかった俺の人生にとって、特異点での旅で抱く感情はめちゃくちゃ手に余るものだけど、アーサーが隣で支えてくれるから、自分の感情をゆっくり処理できるんだ」

「…そうして世界と向き合った君に、僕は諫められ、気づかされてきた。ローマでも、ロンドンでも、アメリカでもね。ともに戦ってくれる人がいるという頼もしさを、君が教えてくれた。英霊たちと向き合う君の言葉に、隣で聞いていた僕も救われた。アキレウス殿もそうして君にああ言ったんだよ」

「そう、なのか」

「あぁ。だから、君も誇っていい。自分を、誇るんだ」


耳元で優しくそう言ってくれたアーサーに、唯斗はなんと返せば良いのか分からなくなる。誰しもに否定されてきた唯斗の存在を、こうして多くの人たちが受けて入れてくれることがなかったから、いまだ自分を誇るということが難しく感じられてしまう。
そんなすごいことをしているわけでもないし、まだまだ未熟なのも確かなのだから。

しかし、唯斗は少ししてから口を開く。


「…みんなに、俺がマスターで良かったって言ってもらえるんだ。少なくともそれは、自分で自分を誇らしく思うことにする。まだ、そういうのは難しいけど」

「今はそれでいいさ。それもまた、少しずつ育てていこうね」


そしてようやく、レイシフトが始まった。長かった旅が終わり、カルデアに戻るのだ。
多くの犠牲があった特異点だった。それでも、差し込む朝日は、今まで見たどんな朝日よりも美しく感じられた。


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