太陽王と元無気力少年−6
アーラシュの腕に横抱きにされながらオジマンディアスを見遣る。
サンソンの宝具によって処刑台に引き立てられるオジマンディアスは、さすがに令呪を使っているサンソンの攻撃であるため、逃れることができないようだった。
「…サンソン、宝具展開を中止」
「はい、マスター」
サンソンは分かっていたように応じた。こうなることまで想定済みだっただろう。サンソンが処刑台を消すのを見ながら、唯斗もアーラシュの腕から降りる。宝具が掻き消えたことで、オジマンディアスは大理石に着地した。
そして、自身も固有結界を消失させ、辺りは草原に戻った。エミヤも応じて宝具の解放を止めたため、元の光景になる。途端に爽やかな風が一同の合間を吹き抜けて、シミュレーションであるにも関わらずまったくそう感じさせない五感の中、オジマンディアスの低く明瞭な声が唯斗に向けられた。
「なぜ攻撃を途中でやめた。あのまま断頭していればよかったであろう」
「フランスは歴史に敬意を払う国だ。サンソンはフランス生まれ、俺も人生のほとんどをフランスで過ごした。そのフランスの英霊であるサンソンに、ファラオを処刑させたくなかった。悪いけど、あんたへの同情とかじゃない」
「フン、余に同情や情けをかけようなどしようものなら退去していた」
かつてナポレオンは、エジプトに集った軍勢を前に、ピラミッドを示してこう言った。「見よ、4000年の歴史が我々を見ている」と。フランスのエジプトに対する国民感情や文化的影響は並々ならぬものがある。
散っていた他のサーヴァントたちも唯斗の周りに集まり、オジマンディアスは彼らをちらりと見てから、改めて唯斗に向き直った。
「貴様が人理修復を行うのもそれが理由か。魔術師としての手柄などではなく、歴史への敬意によるものだと」
「ほとんどそうなるな。第一、俺は正式な魔術師じゃない。俺がグランドオーダーをやっているのは…」
唯斗がグランドオーダーに命をかける理由。
それは第一特異点、この平原を竜を倒しながら歩いた頃より大きく変化していき、やがてそれはアメリカで言語化できるに至った。
「最初は人理なんてどうでもよかった。この世界が滅んだって俺には関係ないって。それでも、このフランスでマリー・アントワネットやジャンヌ・ダルクに出会って、サンソンや他のサーヴァントたちにも出会って、彼らが託してくれたこの国を、少し好きになれた。そうして5つの特異点を巡る中で、俺は、英霊たちが託してくれたこの世界なら、守ってやってもいいと思えるようになった。俺たちに託してくれたあなたたちのためにも、次の世代に託したいと思うようになった。そのためには、俺たち人間こそが戦わなきゃいけないんだ」
「……たとえその世界に自らの居場所がなくてもか?」
そこに問いかけてきたのは、意外にもギルガメッシュだった。少し驚いて振り返ると、真っすぐにこちらを見つめている。
「以前、貴様の夢を共有させられてからというもの疑問に思っていた。なぜ、貴様は居場所を奪われ、魔術協会から理不尽に扱われ、世界に弾かれた立場であるにも関わらず、人理のために戦うのだ。なんの得がある?唯斗よ」
どうやら、以前に夢を共有して唯斗の過去を見てからというもの、ギルガメッシュとしてはなぜ唯斗がこうも人理復元のために戦うのかが疑問だったらしい。
「自分の損得が必ずしも自分の範囲だけに収まるとは限らない。それは、王であるあんたこそよく知ってることだろ」
歴史のバトンを繋ぐ、それが目的であることは確かに主観的な理由ではないかもしれないが、単に「そうしたい」というだけのものだ。その感情は、自分だけのものである。
「…まぁ、強いて言うなら。あんたがくれるチョコとかを、一度は自分で食いに行きたいかもだな」
「フッ…フハハハハハ!!まさか餌付けが世界を救う一助になるとはな!」
唯斗の回答に満足したのか、おかしそうに笑ったギルガメッシュを見て、オジマンディアスはため息をついた。そして、おもむろにこちらに近づいてくると、すぐ目の前に立つ。至近距離に立たれると、やはりサンソンとほとんど同じくらいの身長差しかないはずなのに、体の厚みと威圧感によってそう感じさせないのだと分かる。