太陽王と元無気力少年−7
「ある程度理解した。いいだろう、貴様が余のマスターを名乗ること、特に赦す。光栄に思え。だが忘れるな、余が貴様を伴うのだ、ゆめゆめ勘違いするでないぞ」
「ギルガメッシュと似たようなこと言うんだな。俺だって、あのファラオの中のファラオがへりくだってるとこなんて見たくない。安心した」
すると、オジマンディアスは聞いていないのかどうでもいいのか、恐らく後者だろうが、特に返さず唯斗の頬に指を滑らせると、そっと唯斗の顎を持ち上げた。上向かせられ、至近距離で見上げることになる。
「…もう一人のマスターの空のような青い瞳も美しいものだったが…お前の瞳は、海や川とも違う、清澄たる湖や泉のように、内から湧き上がる水を湛えたようだ。あの少年の瞳が大河・大洋のおおらかさを持つのであれば、お前の瞳はそうさな、広くはないが、深く透き通り、乱れぬ水鏡のような湖のそれだ。存外悪くないものを見た」
「ッ…」
滔々と瞳を褒められて、唯斗はどうすればいいのか分からなくなる。確かに立香の青い瞳は綺麗だと思うが、唯斗の色素の薄いだけの瞳をそう褒められると、気恥ずかしくなって顔に熱が集中するのを感じる。
それを見たオジマンディアスは僅かに楽し気にして、さらに顔を近づけてきた。戦いが終わったからか、今目の前にいるのは唯斗をマスターだと認めてくれた憧れの古代王であると知覚されて、急に照れやらなんやらが湧いてきた。
「え、と…その、なんつか…」
つい目を逸らすと、おもむろに唯斗の目が隠される。長い指が唯斗の視界を遮って、すぐ近くに最も慣れた気配を感じる。
「すまないライダー、そこまでにしてくれないだろうか」
「………聖剣使い」
アーサーが割って入るような形になり、オジマンディアスの声の温度が低くなる。背後では、飽きたのかギルガメッシュが一足先に戻り、サンソンとディルムッドがハラハラと見守っているのが分かった。エミヤも呆れて帰ったようで、アーラシュとアキレウスは囃し立てて笑っている。今頃、戦いを見守っていた野次馬のサーヴァントたちも解散したことだろう。むしろそうしていて欲しい。
オジマンディアスは邪魔をしたアーサーに特に怒ることもなく、唯斗から離れた。というより、アーサーから距離を取った。
「もう一人の勇者よ。貴様、この世界にも凶兆を見たか」
「恐らく。Lの瘴気もRの残り香も見つけられていない以上、確たることは言えないけれど」
「フン、せいぜいその聖なる剣を錆びつかせないことだ。腑抜けた態度をしてみろ、余が介錯してやろう」
「心配無用だよ。私にはマスターがいる」
凶兆とは恐らくビーストのことだろう。アーラシュやオジマンディアスたちが戦ったという異世界の聖杯戦争において出現したビーストを追っているアーサーに、オジマンディアスはすぐにその目的に気付いていたようだ。
しかしアーサーは毅然と唯斗の肩を抱いて言い放った。オジマンディアスは世界を救おうという気概を失わずにいるアーサーを見て、ひとまずは怒りを鎮めたようだった。
それを見計らって、アーラシュがパンと手を打つ。
「よし、じゃあ一件落着だな!さすがマスター、また戦い方が上手くなったな。ひとまず戻って飯にでもしようや」
「ありがとな、でもまだまだだ。サンソンに怒られそうだし、とっとと戻って…」
「おや、逃げられるとでも?」
突如として背後に立ったサンソンにびくりと肩が跳ねる。
オジマンディアスに向かって単身で突っ込んでいったことに、恐らくサンソンはご立腹だろう。もちろん、唯斗はオジマンディアスが凡夫の人間たる唯斗に直接手を下す真似はしないだろうということや、そもそもシミュレーターであることもあってああしたし、それは他のサーヴァントたちも理解しているだろうが、もしかしたら小言は当事者であるサンソンからあるだろうと控えていたのかもしれない。
「ゆっくりお話ししましょう、マスター」
「………オジマンディアス、カルデアの案内する」
「いらぬ、勇者に頼む故な。戦闘とはいえ余の玉体に断りなく触れたのだ、そこの処刑人の小言も甘んじて受けることだ」
言葉のわりにからかうような色を乗せて言ったオジマンディアスは、アーラシュを伴ってさっさと戻ってしまった。アキレウスとディルムッドもすでに戻っており、残された唯斗は、一度シミュレーターを出てからサンソンにみっちりと説教を食らったのだった。