生まれてきたことに−1
6月に入り、オジマンディアスがシミュレーターに籠って元の落ち着いた生活が戻ってきたところで、立香はさらにサーヴァントを増強し、ジェロニモ、ネロ、ナイチンゲール、ビリー、カルナ、アルジュナ、玉藻の前、坂田金時が召喚された。
記録にないものの、ビリーとロビンフッドはやはり意気投合して一緒に過ごすようになり、そこに立香とアルジュナも加わって、何やら男子高校生のような集団ができあがっていた。
一方、医務室にはサンソンとナイチンゲールによる体制ができたためロマニの負担がさらに減り、エリザベートはライバルの登場で張り切ってカラオケルームを占拠するようになり、カルナはアルジュナに突っかかられたり足りない言葉を翻訳してもらったりしていた。
カルデアはさらに賑やかになったが、一方で、第六特異点へのレイシフトも7月末ごろに決定され、少しずつ次の任務への意識も高まっている。
そんな中、唯斗はダ・ヴィンチに、更なる自衛能力の強化を命じられた。なんでも、ダ・ヴィンチは次の特異点でアーサーの代わりに自分がレイシフトすることを検討しているらしい。それほどの異常値が観測されているということだ。
まだ決定されていないためアーサーはおろか立香やロマニにすら知らされていないことのようなので、唯斗は黙って指示された通りに自衛能力の強化のための訓練を続けていた。
それに、言わずともアメリカで飲んだ苦渋を忘れはしない。
そうして迎えた6月9日、この日も唯斗は魔術の訓練のため、キャスターを頼っていた。面倒そうにしつつも、きちんと付き合ってくれるあたり、やはり兄貴肌の男である。
ルーン魔術とは遠縁の系統である唯斗の魔術はキャスターと相性がいいということもあるが、自分のキャスタークラスであるギルガメッシュを頼らないのは、単にそれが憚られるからだったし、ギルガメッシュとて嫌だろう。そう思っていた。
「……おい雑種、なぜ狗とシミュレーターに向かっている。自分のサーヴァントも忘れたか」
「ギルガメッシュ…いや、別にそういうんじゃないけど…」
シミュレーター近くまで来たとき、管制室でロマニの手伝いをしてやっていたらしいギルガメッシュと廊下で出くわした。キャスターと歩く唯斗を見て不快そうにする。キャスターはギルガメッシュの罵詈には慣れたようで、面倒くさそうにしていた。
「この我よりそこな狗の方が適役と申すか」
「…ギルガメッシュこそ、俺が訓練を見てくれって言ったら見てくれんの」
「応じるか否かではなく我をまず頼るのが筋だという話だろう」
そこそこ正論なことを言われてしまい、唯斗は押し黙る。確かに、そもそもギルガメッシュに相談することさえしなかった。
「あー…坊主が困ってっから答えてやるが、俺ァあんたが召喚される前から訓練を監督してやってたからそのままそれが続いてるだけさね。あんたが出しゃばりたいんならそうすりゃいい」
「不敬」
突然、キャスターの足元から鎖が突き出して、キャスターは慌ててそれを避けた。ここで避けられるのがクー・フーリンたるゆえんである。
「…しかし興が乗った。我から直に指導を賜るのもマスター冥利に尽きるというもの。たまには我自ら凡夫に道を示すのもまた王たる務めよ」
「いや、別に…」
「やかましい、我がやると決めたのだ、ただ喜びに打ち震えていればよい」
ギルガメッシュはなぜかやる気になってしまっており、仕方なく、唯斗はギルガメッシュにこのまま見てもらうことにした。王たる務め云々は別として、ギルガメッシュに見てもらえるというのは、それはそれで興味があるのは確かだ。
キャスターに礼を言いつつ別れると、シミュレータールームの入り口でさらに別の古代王オジマンディアスと出くわす。シミュレーターストレージの一区画を丸ごと占領して複合神殿を再現しているとのことだが、それを一部調節して再び戻ろうとしていたところだったようだ。
「黄金の、それに唯斗か。何をしている」
「太陽のか。雑種に教えを乞われたのでな、寛大な我が付き合ってやるまで」
誰も乞いて願ったわけではないが、もうそこは諦めて黙る。すると、オジマンディアスもなぜかニヤリとした。
「ほう、それは一興。であれば余も混ざってやろう。この僥倖、いかなる神に感謝すれど足りぬだろう。神王ファラオに謝辞を存分に述べる栄誉を与えてやろう」
「……どうも………」
これは正直、かなり面倒なことになった。完全に愉悦モードに入っているギルガメッシュとオジマンディアスを止める術などない。仕方なく、唯斗は古代王に挟まれてシミュレーターを起動した。