生まれてきたことに−2
なんとかギルガメッシュとオジマンディアスの強引な指導を耐えてシミュレーターから出てきた頃には、唯斗はへとへとになっていた。
破壊光線のようなガンドを見ていたく面白がったギルガメッシュが何度も撃たせ、オジマンディアスも興が乗ったらしくエネミーを次々と薙ぎ払っていったため、消耗が激しいのだ。
ギルガメッシュいわく、「子供の水鉄砲から迫撃砲が放たれたら誰でも大笑いするであろう」とのたまったが、笑いごとではないだろうと力なくツッコミを入れることしかできなかった。
さらに、シミュレーターで暴れ過ぎたためにダ・ヴィンチに咎められ、サーヴァント二人も含めて負荷を一応調べることになり、揃って工房に呼び出されてしまった。まるで悪さをして教師に呼び出しを食らう生徒のようだが、うち二人は神王と神の血を引く王である。
そうして工房で三人揃ってダ・ヴィンチのお手製のスクリーニングマシンを受けていると、ふと、ダ・ヴィンチが思い出したように口を開いた。
「そういえば、今日は本来の西暦であれば君の誕生日じゃないかい?」
「え……あぁ、そうだったかも」
タブレットのカルテを見て思い出したのか、ダ・ヴィンチはパチンを指を鳴らして「おめでとう」と言ってくれた。確かに、今日は本来なら2016年の6月9日、唯斗の誕生日である。
「…そうか、誕生日ってそういや祝われるものだったな。わりと…うん、生まれて初めて祝われたかもしれない」
「君の場合は環境柄そうだったかもだが、今はカルデアのマスターとしてなくてはならない存在だ。知っている人たちからは祝われるんじゃないかい?」
「ロマニとダ・ヴィンチくらいだろ、知ってんの。そういうイベントに思い入れとかはないから、別に…」
自分ですら忘れていたほどだ。別に誕生日ケーキのロウソクを吹き消したいわけではないし、それをやれと言われたら恥ずかしさが勝るだろう。ダ・ヴィンチは微笑みながらタブレットに視線を戻した。
「ほう、貴様の誕生日とな。雑種といえど今日の余興は悪くないものであった、特に言祝いでやろう」
「余興て…まぁ、ありがとう」
すると、左に立つギルガメッシュもいつも通りの居丈高でそう言った。本来はキャスターにきちんと指導してもらうはずだった訓練を余興と言われてしまったが、まさかギルガメッシュに祝われるとは。そう思っていると、「ふむ」と右隣に立っているオジマンディアスもこちらを見降ろす。
「誕生日、などというもの自体、余の時代には盛んなものではなかったが、斯様な習慣であるというのなら余も祝ってやろうではないか」
「え…え、マジで?ファラオにまで祝ってもらえんのか…?」
「おい貴様、我のときと反応が違うではないか」
オジマンディアスに祝われるとは思わず、つい驚いてオジマンディアスの意思の強い瞳を見上げてしまったが、その反応にギルガメッシュの声が低くなる。この程度で怒る人物ではないが、おもしろくもなさそうだ。
「だってやっぱラムセス2世は特別だし…」
「うむ、正直な者は好ましい。存分に崇めるがよい」
オジマンディアスはそう言って唯斗の頭を存外優しい手つきで撫でる。
彼の言う通り、「誕生日」という風習は、必ずしも普遍的なものではない。時代や地域によってはそういった文化がないこともあり、儒教やイスラームでは誕生日を祝う行為がネガティブに捉えられることもある。現代でも、途上国では行政そのものが機能しきっていないこともあるため、誕生日を知らずに生きていくこともある。遊牧民などはそもそも日付という感覚を必要としないため誕生日の記録自体がなく、そういった国ではパスポートの誕生日欄が任意となっているものだ。
それでも現代の多くの国では、誕生日を祝うことが一般的で、そしてそれに対して唯斗が「普通」ではなかった自覚はあった。もちろん、この程度であれば魔術師の家庭では珍しいことでもなんでもない。
「…でも、いや、ほんとありがとう、ギルガメッシュ、オジマンディアス。なんつか、あんたらに言葉もらえたってだけで、やっぱり特別なことなんだなって実感した」
自分でそう言うことがなんだか気恥ずかしく、少し顔を逸らしてそう言うと、オジマンディアスとギルガメッシュは少しだけ呆れたようなため息をつきながらも、それは優しい気配のものだった。