生まれてきたことに−3


検査が終わり、ギルガメッシュは自室へ、オジマンディアスはまた自分専用のシミュレーターに戻っていった一方、唯斗は少しだけダ・ヴィンチと訓練の進捗について共有してから工房を出た。

工房を出るとすぐに管制室になるが、階段状の管制室を上段へと向かっていくと、一番上の所長デスクにいるロマニがこちらに手を振った。
ロマニのデスクに着くと、何やら箱を手渡される。


「え、なんだこれ」

「僕の秘蔵のチョコレートさ!ギルガメッシュ王からよく餌付けされているだろう?今日はなんてったって君の誕生日だしね」

「…あぁ、そういうことか。ありがとう、あんたとダ・ヴィンチくらいだろうなって思ってた、知ってるの」


どうやら誕生日プレゼントらしい。いつも通りの柔和な笑みを浮かべるロマニに礼を言うと、下層から他のスタッフたちも「おめでとう」と声をかけてくれる。
相次いで声をかけられるとは思っていなかったため、どう反応すればいいのか分からず、会釈気味に目礼すると、分かっているようにそれぞれが笑顔を向けてから仕事に戻った。こちらが苦しくなり過ぎない範囲に、あえて留めてくれたのだとすぐ理解する。


「…恵まれすぎてるな」


ふとそう小さく呟くと、意外にもロマニが返した。


「そうかな?むしろ君の働きは、もっと好待遇を要求して然るものだよ。それに、さっきの君の言葉も少しだけ訂正しよう」

「…?」

「主に君の治療を行って、その記録をしているのは誰だったかな?」

「…あ、」


そう、立香やマシュの体調管理とスタッフのケア、そしてカルデアの維持管理と特異点調査のために不眠不休で働くロマニに代わり、サーヴァントや唯斗のことを一手に引き受けていたのは別の人物だ。今はナイチンゲールも加えているが、依然として唯斗のことはすべて一任されている。


「…サンソンか」




唯斗が察した通り、管制室を出て少し廊下を歩くとすぐ、こちらを探していたらしいディルムッドと鉢合わせた。


「我が主よ、本日はあなたの生誕の日とサンソン殿から聞き及びました。なんと目出度いことでしょう」

「いや…うん、俺は聖人か何かか…?」


こうなることは予想できていたが、全身から「喜ばしい」という感情を表出させているかのようなディルムッドの様子に思わず苦笑してしまう。
当然のように唯斗の前に跪いてこちらを見上げるこの姿勢にももう慣れた。


「私にとっては似たようなものです、マスター。今日はあなた生まれてきてくださった日、今日という日がなければ私はあなたと出会えなかった。この僥倖、この幸運、なんと祝い喜ぶべきものでしょう」


ディルムッドの言葉に、ふと唯斗は今更気付く。
誕生日を祝うという感情の、本当の意味を、祝われて初めて理解した。


「…そうか、誕生日って、単に節目の行事だと思ってたけど。生まれてきたことを祝ってもらうって、すごいことだな」


七五三や成人式のような、人生の節目を慣習的に祝うものとしか認識していなかったが、ディルムッドの言葉は、唯斗と出会えたことへの喜びを示すものだった。


「会えて良かったってことを、生まれてきた日に託して伝えるって…そういうことなんだな。知らなかった」

「……ええ、その通りです。もちろん節目としての祝いでもありますが、私は何よりも、あなたと出会えたという事実そのものに感謝したいのです」

「…ありがとう、ディルムッド。よければ立ってもらっていいか」


跪いていたディルムッドを立たせると、そっと正面から身を寄せる。抱き着くのは少しハードルが高く、肩口に頭を預けるような程度のものだったが、ディルムッドはしっかりと抱きしめ返してきたため、結果的に抱き着くような形になる。


「なんか、言葉にできなかった。悪い、誕生日プレゼントかなんかだと思ってくれ」

「そんな、それでは誕生日プレゼントのような特別な意味でしかあなたを抱き締められなくなってしまいます。どうか、なんでもないときでも、このように触れさせてください」

「……俺相手に変な奴だな」

「そうでしょうか?むしろ私がプレゼントをいただいているかのようだとすら思っておりますのに」


先ほどより深く抱き締められる温もりが心地よく、触れているところから、この言葉で伝えきれない感情を伝えられたらと、そう思って少しだけ目を閉じた。


245/460
prev next
back
表紙へ戻る